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総合TOP > リコメンドインデックス > (隔)週刊 鷺巣詩郎 > 2008/03/05 トゥーツ・シールマンス

(隔)週刊 鷺巣詩郎  鷺巣詩郎の選ぶおすすめの1枚
トゥーツ・シールマンス
『Verve Jazz Masters ’59: Toots Thielemans』
トゥーツ・シールマンス   『Verve Jazz Masters ’59: Toots Thielemans』
TRACK LIST
トゥーツ・シールマンス 『Verve Jazz Masters ’59: Toots Thielemans』
1996 Release
ダウンロード価格
アルバム \1,500(税込)
トラック 各\150(税込)
アーティスト詳細へ
スイング〜ビバップ時代からの生き証人にして「今なお現役」…ジャズ界の歴史そのもの

今われわれ音楽人が、いちばん失いたくない重鎮Jean-Baptiste Frederic Isidor, Baron=アーティスト名、通称トゥーツ・シールマンス。世界的にも稀有なるジャズ・ハーモニカの「もっとも優秀なるインプロヴァイザー」にしてギタリスト、さらには正確無比な口笛プレイヤーでもある。1922年ベルギーに生まれ、20世紀ジャズの礎を築いたギタリスト、ジャンゴ・ラインハルト(1910〜53)や、その相棒的な存在から他の追従を許さぬ世界一のジャズ・ヴァイオリニストに登りつめたステファン・グラッペリ(1908〜1997)との欧州における共演歴。もう、これだけでも信じられないことであるが、さらに50年代当時、説明無用のスイング王ベニー・グッドマン(1909〜86)の欧州ツアーに参加したことをキッカケにUSに渡り、なんとチャーリー・パーカー(1920〜55)、ディジー・ガレスピー(1917〜93)などと共演、所謂「ビバップ・ムーブメント」の真只中へ身を投じ、その後も、エラ・フィッツジェラルド(1917〜96)、ビル・エヴァンス(1926〜80)、ジャコ・パストリアス(1951〜87)といったジャズのエポック・メイカー、キーパーソンたちとの共演を経て「今なお現役」という、まさに驚くべきリビング・レジェンドが、このトゥーツ・シールマンスである。

 ブラックジョークでもなんでもなく、悲しいかな列挙した共演者たちすべては、すでに他界してしまっている。なにしろ、きらびやかな彼等ジャズ・ジャイアントたちが、スイング〜ビバップ〜モダンそれぞれのパイオニア、オーソリティーたちであることを考えれば、ムリもないことだ。つまり、いうならばトゥーツの存在自体が「20世紀ジャズの歴史そのもの」なのである。  しかも、トゥーツ・シールマンスというアーティストのすごいところは、ジャコ・パストリアスという息子ほど年の差がある天才アーティストとも恒常的なグループを組んで活動したり、数多くのポップ・アーティストの作品にも好んで客演するという、オールマイティー・プレイヤーぶりであろう。その、どのパフォーマンスにおいても自身のスタイルから「微塵も離れていない」点が、また驚異的だ。

 とくに80代以降、トゥーツの存在をジャズ・ファンだけではなく「一般的」に、さらには「世界的」に知らしめたのは、クインシー・ジョーンズの功績によるところが大きい。

 クインシーは、自身のリーダー・アルバム『Mellow Madness』(1975)において、トゥーツの名曲“Bluesette”を「クインシー流儀」に沿って大胆にアレンジした。ちなみにトゥーツがこの曲のオリジナルを書いたのは1962年だが、もちろんオリジナル発表当時のトラックを知る者は少ない。  アレンジャー、プロデューサーというよりは大物フィクサーの肩書きがふさわしいクインシーが、もっとも得意とする「名人、または名曲プレゼンター」ぶりを申しぶんなく発揮したのが、この名トラックである。そう、クインシーは、自身のアルバムとはいえ「自分が見つけてきた逸材」を「最大限の演出で紹介する」という流儀を、常に徹底してきた男だ。もちろんトゥーツは、それ以前から業界やジャズ・ファンの間では「そこそこ知られた存在」だったかもしれないが、クインシーはそうした逸材を「もっと広く一般的リスナーにも訴求する」ために豪華絢爛な演出をほどこすことで、結果「逸材を意のままに操ることができる」自分自身の価値を高めていく、という帝王理論のもと、ハービー・ハンコックを、フィル・ウッズを、ブラザーズ・ジョンソンを、ロッド・テンパートンを、パティ・オースティンを、ジェームズ・イングラムをも、スター・ミュージシャンに仕立て上げていたのだから。  とにかく、クインシー版の“Bluesette”は衝撃的だった。もっと極端に言えば、すでにベテランの域に達していたアーティストのトゥーツ・シールマンスではあるが、この1曲により、さらに「それ以降、つまり80年以降の世界的な活躍」まで約束されてしまった…それだけインプレッシヴなテイクだったということだ。この“Bluesette”なしには、その後のジャコとの共演も無かったのではなかろうか。

 そもそも『Mellow Madness』は、クインシーがジャズ的な表現から離れて、もっと、よりコンテンポラリーな黒人音楽を目指した、ある意味「戦略的な」ボーカル楽曲ばかり集めた、所謂「R&Bソウル」アルバムなのだが、クインシーはなんとその終盤、つまりクライマックスとして、トゥーツのこの曲を配すのである。自分の軸足は、あくまでもここ(ジャズ)にあるんだという意思表示に、欧州出身のトゥーツをフィーチャーするあたりが、いかにもクインシーらしいではないか。  内容としては、まずハーモニカはもちろん、ギターあり、口笛ありの、もうトゥーツの素晴らしい才能のショーケースみたいなアレンジ展開でもあるが、このテイクを「クインシーでなければ不可能」と誰もが納得する「クインシー印(じるし)」に染め上げている要素は、まずなんといっても超プログレッシヴなアレンジでメロディをボーカライズする黒人クワイア(合唱団)の存在が第一、そして、重鎮フランク・ロソリーノによる圧巻のトロンボーンのアドリブ・ソロが第二。パーフェクトなキャスティング、緻密なバックアップ…もう、これでもかとたたみかけるクインシーの凄まじい底力だ…そう、この豪華絢爛な演出がトゥーツ・シールマンスを50代にしてスター・ミュージシャンに生まれ変わらせたのである。

 とうぜんトゥーツもその後、クインシーの恩義にはじゅうぶん応えている。そのクロマティック・ジャズ・ハーモニカによる感情豊かなパフォーマンスは、クインシーのあらゆる場面における音楽表現を豊かに彩(いろど)ることを可能にしたのだ。それは、クインシーが音楽を担当したダイアナ・ロスマイケル・ジャクソンによるミュージカル映画『ウィズ』や、クインシーが音楽のみならず映画全体にまで出資したスティーヴン・スピルバーグ+ウーピー・ゴールドバーグによる『カラー・パープル』の両サントラにおいて、いかにトゥーツのハーモニカがフィーチャーされているかを聴けば、容易に理解できよう。

 そして、同じくクインシーの『The Dude』(1981)という作品において二人の相思相愛ぶりは頂点に達する。このアルバムでトゥーツがメロディを奏でる楽曲群の美しさは、「トゥーツ+クインシー」にしか表現できないケミストリー(相互反応)であり、それらのトラックをきわめて高度なレコード芸術にまで昇華させている。“Bluesette”のように非常に洗練されたジャズの理想形であることはもちろんのこと、さらにはモンド的でもあり、スムース・ジャズとしても極上、という「新世紀=21世紀型のジャズ」をも同時に具象化してみせたのである。

 さて、当アルバム『Verve Jazz Masters ’59: Toots Thielemans』は、そんなトゥーツ・シールマンスというジャズ・ミュージシャンの歴史、つまり20世紀のジャズの歴史そのものを垣間見ることができる貴重なコンピレーション、とうぜん“Bluesette”も収録されている。もし「世界でいちばん好きな曲は?」と質問されたら、僕はためらわず“Bluesette”と即答する…その曲を、ぜひお聴きいただきたい。

 願わくば「一日でも長く生きして欲しい」…フランスやベルギーのTVに、たまに登場するトゥーツを見るにつけ、そう思い望む自分がいるが、これは世界中の音楽ファンが心底望んでいることでもある。

鷺巣詩郎(さぎすしろう)

お知らせ
ワールドワイドに活躍中の作曲家、音楽プロデューサーの鷺巣詩郎のブログ「SHIRO'S SONGBOOK ひろば」がついにOPEN!
プロフィール
鷺巣 詩郎
25年以上もの長きにわたり第一線で活躍し続け、驚異的なキャリアを誇る、作曲家、編曲家、音楽プロデューサー。
80年代初頭のアイドル歌謡曲時代から、インストゥルメンタル・アーティスト、近年のシンガー・アーティストに至るまで広範囲にわたり何百何千もの楽曲、アーティストを手掛け、くわえて、映画、TVなど、あらゆる映像音楽(サウンド・トラック)分野でも活躍、あわせて膨大な数の大ヒットを、絶えず世に送り出している。
90年代よりヨーロッパでも活動、パリでのクラブ経営、英仏アーティストの楽曲も手掛ける。また日本人として初めて韓国映画の音楽監督もつとめた。
近年の代表作はMISIA、平井堅、CHEMISTRY、エリーシャ・ラヴァーン、SMAP、「新世紀エヴァンゲリオン」「MUSA」「CASSHERN」など。 自身のアーティスト活動も”SHIRO'S SONGBOOK”シリーズとして継続中、最新CDが2005年8月avexより発売される。
R&B専門誌への長期連載、USENサイトへのコラム、ブログなどの執筆活動も盛ん。現在ロンドン、パリ、東京の3ヶ所に在住。
USENのCS衛星放送SOUND PLANETにて鷺巣詩郎選曲による音楽プログラム『SHIRO'S SONGBOOK』(BF-53チャンネル)が 絶賛放送中! こちらもお聴き逃しなく!





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