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総合TOP > リコメンドインデックス > (隔)週刊 鷺巣詩郎 > 2008/02/06 アル・ジャロウ

(隔)週刊 鷺巣詩郎  鷺巣詩郎の選ぶおすすめの1枚
アル・ジャロウ 『Tomorrow Today(HD 16bit/44.1kHz)』
アル・ジャロウ  『Tomorrow Today(HD 16bit/44.1kHz)』
「アル・ジャロウらしい」こと、イコール、アル・ジャロウのレゾン・デートル

アル・ジャロウこそ、正真正銘のクロスオーバー・ボーカリストではないか。  そう、アルは1975年のデビュー以来「クロスオーバーであり続け」、「ジャンル特定が不可能な」スタイルを一貫させている。こんなボーカリストは、古今東西、唯一無比の存在だ。いかなるジャンルにも留まらない…あえて表現するならば、まさに「アル・ジャロウというジャンル」…としか言いようがない。

 それを証明するような、驚くべきグラミー受賞暦を、ここに紹介しよう。  もちろん輝かしい功績であるこに変わりはないが、なんと1978、79年には「最優秀『ジャズ』ボーカル・パフォーマンス」賞を、そして81年には、かのセサミ・ストリートの楽曲を唄い「『子供たちのための』最優秀アルバム」賞を、さらに82年には「最優秀男性『ポップ』・パフォーマンス」賞にくわえ、別楽曲で「最優秀男性『ジャズ』ボーカル・パフォーマンス」賞まで、つまり同年に2曲で「異なるジャンル」の最優秀賞を(もうこのあたりからアル・ジャロウの面目躍如)、今度は93年に「最優秀『R&B』ボーカル・パフォーマンス」賞を、とどめは、昨2007年「最優秀『伝統』R&Bボーカル・パフォーマンス」賞を、これらすべてを受賞しているのである。あいた口がふさがらないとは、まさしくこのことだ。こんなボーカリスト他に絶対いない。  まぁ、当然この先も「多ジャンルにわたり」、アルがグラミーを受賞しつづけることも間違いないだろう。

 たとえばチャカ・カーンは、ディジー・ガレスピーの難曲“チュニジアの夜”のビバップ・トランペット・フレージングを完璧にボーカライズするという、信じがたい名唱、名演を残した。この快挙はチャカが「ソウル」マナーに則(のっと)ったうえで、彼女の「ジャズ」に対するとてつもなく大きな尊敬と憧憬を表現したものである。立ち位置はハッキリしている。つまり、いま自分が居る「ソウル」という立ち位置に加えて、かならずいつかは踏み入れたい聖地「ジャス」という立ち位置も明確にした…そういうチャカ一流のパフォーマンスなのだ。  対するアル・ジャロウは、チック・コリアの難曲“スペイン”をあらゆる角度から自己流=ジャロウ流にボーカライズしてしまう、という名唱を残した…これは、あくまでも「アル・ジャロウならば、この楽器のフレージングは、このように唄うしかない」という換骨奪胎であり、「ソウル」「ジャズ」「ポップ」など、いかなる既成のジャンルの立ち位置に立ったパフォーマンスでもない、ということだ。

 これこそがアル・ジャロウというボーカリストの圧倒的なレゾン・デートル=存在価値ではないか。

 さらに、アル・ジャロウというアーティストのすごいところは、ボーカル・パフォーマンスだけではなく、参加ミュージシャンすべてから最上のパフォーマンスを引き出すことにかけても、非常にすぐれている。これもまた「超」一流の証明である。ゆえに数ある彼のアルバムにはレコード芸術の域に達した、秀逸な名作も多いのである。

 数ある、そうしたアルバム群から、名ギタリスト・プロデューサーのジェイ・グレイドンと共に制作された『Jareau』(1984)という名盤に寄せた僕の文章を、ここで紹介しておこう。

 とくに70年代後期から80年代前半にかけて多くの佳作を残した「デヴィッド・フォスター+ジェリー・ヘイ」型のプロダクションの中でも、もっとも優れた作品のひとつ。  どの曲も異常に完成度の高いプロダクションだが、中でも“Mornin'”(1曲目)と“Save Me”(4曲目)の2曲はミュージシャンのパフォーマンスもふくめ完璧の域に達している。

 アルバム自体はジェイ・グレイドンのプロデュースによるアル・ジャロウのリーダー作だが、フォスター+ヘイの果たした役割も大きい。  クレヴァーなアイデアに満ちた70年代、ヒットを量産し決定的地位を築いた80年代、王道に徹した90年代という具合に時代と共に円熟し、ついにはコンサヴァ(保守路線)になったフォスターだが、この2曲のとろけるように美しいコード・プログレッションとローズ(エレクトリック・ピアノ)・パフォーマンスは、彼が革新派だった頃のテクニックの集大成でもあり、悲しいかなそれらが披露された「最後の」レコードでもある。
 “Mornin'”はデヴィッド本人のリーダー・アルバム収録時よりもさらにビルドアップされたテンションのパッシング・ノートが素晴らしく、ストリングス・オーケストラの間をぬって、デヴィッドの奏でるフレンチ・ホルンを模したプロフェット・シンセがそれらパッシング・ノートをなぞって動く心地よさといったら・・・もう筆舌につくしがたい。この曲が毎朝かかるロンドンの『Smooth FM』を僕はなんと10数年つけっ放しの状態だ(笑)。

 “Save Me”のイントロは鬼!それを受けてデヴィッドの左手が「16分音符ウラが連続する」難易度AAA+のベースラインを奏でると、さらに鬼のスティーヴ・ガッド+アンソニー・ジャクソンがユニゾンで突入。このあたりは世界中のガッド・マニア最上のコレクションだ。そしてデヴィッドお得意の「歪ませた」ローズの低音を合図に、ジェリー・ヘイのホーンズが炸裂するサビが来るあたりで、もう聴いているほうはヘロヘロの骨抜き。間奏では何でもボーカライズしてしまう超絶テクニックやスキャットが売りのアルが、お約束でそのAAA+のベースラインにユニゾン参加するというオマケつきだ。こうなると神々しいコイツらの演奏はもう手がつけられない状態だ。もう神の領域。そう、この“Save Me”はすでにAORの域など超えている。  その時代で最もプログレッシヴな音楽がジャズならば、これ以上はない。まさに極上のジャズである。

 この、「AOR(羊)」の皮をかぶった「極上のジャズ(狼)」サウンドは、アルの80年代の大きな特徴だった。さらに、90年代以降はR&B的な輝きをも増してくるのもすごい。一見、70年代のフュージョン〜80年代のAOR〜90年代のR&B、といった具合に世の時流に迎合しているかのようにも写るが、それはあくまでも「アル・ジャロウを、いかにして売るか」という、レコード会社の方針に従ったに過ぎないのだ。「従う」こと自体も立派だが、「従うことが出来る」万能なスキルとセンスをアルが兼ね備えていること、そして何といっても、それらすべてを成功させてしまうこと…いやはや、至難の業だろうが、どうやらアルに不可能の文字は無いようだ。グラミー受賞暦を見ても明白だが、「音楽的」にも「商業的」にも、とびきりの結果を叩き出せる、おそるべし才能、全能のアーティスト…それがアル・ジャロウなのだ。

 さて、本盤は新世紀に先駆け2000年に発表された、キャリア25年の時点でのアルの秀作。  落ち着いたプロダクションに徹しているが、音楽的には本人、バッキングのパフォーマンスともに、あらゆる面で非常に完成度が高い。まさに「アル・ジャロウ」スタイルの集大成ともいえる内容だ。
 せっかくなので、ぜひとも高音質でのダウンロードをおすすめする。

鷺巣詩郎(さぎすしろう)

お知らせ
ワールドワイドに活躍中の作曲家、音楽プロデューサーの鷺巣詩郎のブログ「SHIRO'S SONGBOOK ひろば」がついにOPEN!
プロフィール
鷺巣 詩郎
25年以上もの長きにわたり第一線で活躍し続け、驚異的なキャリアを誇る、作曲家、編曲家、音楽プロデューサー。
80年代初頭のアイドル歌謡曲時代から、インストゥルメンタル・アーティスト、近年のシンガー・アーティストに至るまで広範囲にわたり何百何千もの楽曲、アーティストを手掛け、くわえて、映画、TVなど、あらゆる映像音楽(サウンド・トラック)分野でも活躍、あわせて膨大な数の大ヒットを、絶えず世に送り出している。
90年代よりヨーロッパでも活動、パリでのクラブ経営、英仏アーティストの楽曲も手掛ける。また日本人として初めて韓国映画の音楽監督もつとめた。
近年の代表作はMISIA、平井堅、CHEMISTRY、エリーシャ・ラヴァーン、SMAP、「新世紀エヴァンゲリオン」「MUSA」「CASSHERN」など。 自身のアーティスト活動も”SHIRO'S SONGBOOK”シリーズとして継続中、最新CDが2005年8月avexより発売される。
R&B専門誌への長期連載、USENサイトへのコラム、ブログなどの執筆活動も盛ん。現在ロンドン、パリ、東京の3ヶ所に在住。
USENのCS衛星放送SOUND PLANETにて鷺巣詩郎選曲による音楽プログラム『SHIRO'S SONGBOOK』(BF-53チャンネル)が 絶賛放送中! こちらもお聴き逃しなく!





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