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総合TOP > リコメンドインデックス > (隔)週刊 鷺巣詩郎 > 2008/01/09 ボビー・コールドウェル

(隔)週刊 鷺巣詩郎  鷺巣詩郎の選ぶおすすめの1枚
ボビー・コールドウェル 『ボビー・コールドウェル・ザ・ベスト』
ボビー・コールドウェル  『ボビー・コールドウェル・ザ・ベスト』
TRACK LIST
ボビー・コールドウェル 『ボビー・コールドウェル・ザ・ベスト』
1989 Release
ダウンロード価格
トラック 各\150(税込)
アーティスト詳細へ
「永遠に、『この快楽』に浸っていたい」世紀の名トラック

 ボビー・コールドウェルというアーティスト、ミュージシャンは、“What You Won't Do For Love”(邦題:風のシルエット)という1曲を、この世に生み落としたというだけで、すでにじゅうぶん歴史に残るはずである。この曲は、それほどの名曲、名トラックであり、まさに「20世紀を代表する1曲」とまで言いきっても過言ではない。そして昔流の言い方かもしれないが、歴史に残る名曲のシンガー「ソングライター」としても永遠に語り継がれるはずである。

 かつて日本では、ボビー・コールドウェルが「日本だけの知名度」と誤解されたこともあり、さらにその後、米のHip-Hop/R&B連中がこの曲を重用したことにより、その誤解が解かれたような経緯もまた、真実を少しばかり横道に逸らしてしまったようだ。がしかし、この際だからハッキリさせておきたい。まず、僕は同名(邦題:イブニング・スキャンダル)デビューアルバムを発売時(1978年)に買い、リアルタイムで大いに衝撃を受けたし、その頃から仕事で日米を行き来していたので本当によく憶えているのだが、米の音楽業界でも発売当時から非常に評価は高かった。その後、日英も行き来するようなり、おなじく英の業界でも高評価だったこともわかった。そう、たしかに「ミュージシャンズ・ミュージシャン」的ではあるが、米英においてもボビー・コールドウェルはデビュー時から今まで「常に高評価」というのが、まぎれもない真実なのである。

 「Jazz」という呼称が、日米に比して広義に解釈されている英国において、とくに80年代後半〜90年代以降、この“What You Won't〜”は「Smooth Jazz」のシンボルのような存在として、絶大なる人気を誇っている。日米ではAOR(アダルト・オリエンテッド・ロック)の、という枕詞(まくらことば)が付くが、AORというカテゴライズが根付かなかった英国で、この曲はSmooth Jazzの、いわゆる旗艦(フラッグ・シップ)、アイコン的なマスターピースだからである。

 Smooth Jazz専門局としてロンドンで大人気の『Jazz FM』(2年前『Smooth FM』と改名された)……入居12年目になるロンドンの僕の現フラット(アパートメント)では、なんと入居日から12年間、Smooth FMを流しっぱなしの状態が続いている(つまり、ラジオを消したことがない)……それほど愛して止まない、この素晴らしいラジオ・ステーションから、この曲が流れない日は無い。それどころか、1日に何度も流れる。ま、いつ聴いても良いが、とくに深夜3時〜4時あたりに、この曲を流されると本当にヤバい。ヤバすぎて鳥肌が立つ。飽きるほど、いや、死ぬほど聴いているのに、いつも必ず立ってしまう。パリや東京に居るときにはSmooth FMが聴けないので、いや、この曲が聴けないので禁断症状をおこすほどだ。思えば1978年から30年近く、僕はこの名曲を聴きつづけているのだがら、途絶えそうになれば、そりゃ禁断症状だわな。

 ちなみに僕はこの曲を聴くと、なぜかFM東京の長寿番組『ジェット・ストリーム』の城達也の名調子を思い出してしまう。きっと“遠い地平線が消えて、深々とした夜の闇に心を休める時、遥か雲海の上を、音もなく流れ去る気流は、たゆみない宇宙の営みを告げています〜”とのオープニングの台詞内容や、「夜間飛行」のイメージが、この曲に対する僕の印象とドンピシャだからなのだと思う。

 この曲におけるハイライトは沢山あるが、一番の聴きどころは何といっても、必要以上に長いそのアウトロ(唄が終わってからフェード・アウトまでのインストゥルメンタル部分)だと確信する。「ループ感覚」というもの、そしてその「快感」を味わうことを、われわれに初めて教えてくれたのが、この曲のアウトロなのだ。だから、ま、必要以上と書いたのは誤りで、必然のアウトロと言うべきなのかもしれない。

 「このまま永遠に、『この快楽』(=このコード進行、リズム)に浸っていたい」

 そんな欲求がムラムラと沸きおこってくる。それは、このままずっと夜の静寂(しじま)が続いてくれれば良いのに…ということでもある。深夜の快楽とは、たとえようのない大人の快楽でもある。それをものの見事に具現化しているアウトロなのだ。

 似たような解釈が可能なマスターピースに“Just The Two Of Us”があるが、“Just〜”のほうは、より直截的に「男女の営み」を連想させる。対する“What You Won't〜”のほうは、もっと「空間的、天体的」であるゆえ、無限の宇宙を感じてしまう。もう、こうなると「詞の内容」ではない。あくまでも「サウンドの印象」。しかし音楽的にこれほど重要なことはない。たとえば、こんな比較はどうだろう。“Just〜”のほうは、前戯までのBGMとしては最高だが、絶頂の手前のどこかでは必ず消したい。しかし“What You Won't〜”のほうは、とにかく余韻までず〜っと流しっ放しにしたい……ってなカンジである。

 僕のいつもの夜間飛行は、エールフランスのAF277便(東京NRT発21時55分)、AF278便(パリCDG発23時35分)。それぞれ毎年、年間10数回は搭乗する「いつもの夜間飛行」便だ。彩(いろど)りゆたかな滑走路から離陸〜上昇〜水平飛行になり機体が落ち着いたころ、シャンパンの泡でのどを潤しながらこの曲を聴く……これ以上のエクスタシーなど、この世にありえない。まさに「地上」ならぬ「雲上の」エクスタシーである。

 鷺巣詩郎(さぎすしろう)

お知らせ
ワールドワイドに活躍中の作曲家、音楽プロデューサーの鷺巣詩郎のブログ「SHIRO'S SONGBOOK ひろば」がついにOPEN!
プロフィール
鷺巣 詩郎
25年以上もの長きにわたり第一線で活躍し続け、驚異的なキャリアを誇る、作曲家、編曲家、音楽プロデューサー。
80年代初頭のアイドル歌謡曲時代から、インストゥルメンタル・アーティスト、近年のシンガー・アーティストに至るまで広範囲にわたり何百何千もの楽曲、アーティストを手掛け、くわえて、映画、TVなど、あらゆる映像音楽(サウンド・トラック)分野でも活躍、あわせて膨大な数の大ヒットを、絶えず世に送り出している。
90年代よりヨーロッパでも活動、パリでのクラブ経営、英仏アーティストの楽曲も手掛ける。また日本人として初めて韓国映画の音楽監督もつとめた。
近年の代表作はMISIA、平井堅、CHEMISTRY、エリーシャ・ラヴァーン、SMAP、「新世紀エヴァンゲリオン」「MUSA」「CASSHERN」など。 自身のアーティスト活動も”SHIRO'S SONGBOOK”シリーズとして継続中、最新CDが2005年8月avexより発売される。
R&B専門誌への長期連載、USENサイトへのコラム、ブログなどの執筆活動も盛ん。現在ロンドン、パリ、東京の3ヶ所に在住。
USENのCS衛星放送SOUND PLANETにて鷺巣詩郎選曲による音楽プログラム『SHIRO'S SONGBOOK』(BF-53チャンネル)が 絶賛放送中! こちらもお聴き逃しなく!





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