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総合TOP > リコメンドインデックス > (隔)週刊 鷺巣詩郎 > 2007/11/07 ステファン・グラッペリ&メニューイン

(隔)週刊 鷺巣詩郎  鷺巣詩郎の選ぶおすすめの1枚
ステファン・グラッペリ&メニューイン
『GRAPPELLI&MENUHIN-THEIR BEST』
ステファン・グラッペリ&メニューイン  『GRAPPELLI&MENUHIN-THEIR BEST』
TRACK LIST
ステファン・グラッペリ&メニューイン 『GRAPPELLI&MENUHIN-THEIR BEST』
ステファン・グラッペリ&メニューイン
『GRAPPELLI&MENUHIN-THEIR BEST』
1998 Release
ダウンロード価格
アルバム\1,500(税込)
トラック\150(税込)
アーティスト詳細へ
マスターピースたりうることをメニューインに証明させた、
グラッペリの完璧なアドリブ

 昨年(2006)の話だが、うれしいことに、この画期的なアルバムの、いわゆる「完コピ」をやってしまった。
 以前ここでも紹介した葉加瀬太郎古澤巌による競演盤『Time has come』である。役回りとしては葉加瀬がGRAPPELLI=グラッペリ役、古澤がMENUHIN=メニューイン役。僕と(葉加瀬)太郎とはデビュー前から一緒にクライズラー&カンパニーを立ち上げ、プロデュース、アレンジした間柄。もう20年ぐらいの付き合いだが、2005年夏に僕が自作『SHIRO'S SONGBOOK vers7.0』をリリースした際、太郎のラジオ番組に出演して「久しぶり(10年ぶりぐらいかな)に一緒に仕事しよか?」と盛り上がったのをキッカケに、「せっかく鷺巣さんと久しぶりにやるのなら」と太郎も是非やりたかった企画が実現したのだ。GRAPPELLI&MENUHINを再現するには、もちろん太郎に相手役が必要。そこで御登場ねがったのが、これまた太郎が12〜3歳の頃から目標と仰いだ師にして大親友の古澤巌である。やはり、チャレンジャー精神にあふれジャンルを超えた数々のパフォーマンスを経験してきた古澤だが、エスタブリッシュド・クラシカルの権化であるメニューイン役にこれほど最適な熟練技巧派のヴァイオリニストは他にいない。逆に、まさか太郎の間近に、これほど最適な弾き手がいたことのほうが大いに驚きだった。しかも過去に(本物の)ステファン・グラッペリとの共演レコーディング歴まである。もう、話はトントン拍子に進むしかなかった。

 『GRAPPELLI&MENUHIN-THEIR BEST』は、もともと何枚か数回にわたりリリースされたアルバムからピックアップしてベストとしたもの。僕は2枚に別れていたバージョンを持っていた。このジャズ界、クラシック界それぞれの巨匠ふたりが共演したセッションがいかに画期的かは、ここでは書きつくせない。オリジナルが発表された1972〜83年、とくに72年当時などは、現在のようにクラシック・ミュージシャンがジャンルの垣根を越えてパフォーマンスをすることは、あらゆる意味から難儀だった。80年代後半〜90年代になって初めて、先ごろ亡くなったパヴァロッティ等による三大テノールやヨーヨーマなどにより、クラシック・ミュージシャンが他ジャンルのミュージシャンと「対等に」共演することが、ごくごく当たり前となったのだ。一般的には何ということはないのかもしれないが、じつは相当革新的なことだったのである。

 グラッペリとメニューインという2大巨匠の経歴を説明するにも、ここでは書きつくせない。なにしろ、この二人ほど数多くの歴史的なセッションをこなしてきたアーティストは他に例を見ないからだ。音楽だけではなく、地域、民族的な意義や、その橋渡しに於いても、二人それぞれが果たした役割は計り知れない。1997年没のグラッペリ、1999年没のメニューインそれぞれが、大袈裟でも何でもなく、いわば20世紀の文化を象徴するような偉大な存在なのである。

 さて、音楽的には、自由奔放な=つまりインプロヴィゼーションによるパフォーマンスが身上のグラッペリ、先人の遺したマスターピース=つまり譜面に魂を注ぎ込むパフォーマンスが身上のメニューイン、といった具合に、その立ち位置は180度対照的だ。  じっさい、この名盤のレコーディングも、グラッペリはすべてアドリブで、メニューインはグラッペリが一度アドリブしたものを譜面に起こし、その上に自分の解釈による変更を加えたりして、進められたということだ。

 しかし、いかにインプロヴィゼーションのグラッペリといっても、まず完璧なジャズ・ミュージシャンによる完璧なアドリブの素地に必要なのが、クラシック以上に膨大な理論と鍛錬の積み重ねであることを、ジャズ・ファン以外の聴き手はなかなか理解しえない。時にはジャズ・ファンも…理解しえないが。
 そして、いかに譜面のメニューインとはいっても、まず完璧なクラシック・ミュージシャンによる譜面への完璧な魂の注ぎ込みに必要なのが、ジャズ以上に深い音楽経験と、豊潤な読解力と、さらにはロックやヒップホップ以上に寸分の隙もないほどのハッタリが必要なことを、クラシック・ファン以外の聴き手はあまり理解しえない。時にはクラシック・ファンさえも…理解できないのである。

 いうまでもなく、結論は「この二人ほどすべてにおいて完璧なミュージシャンはいない」ということだ。音楽は正直である。出来上がったアルバムはクラシックのマスターピースのように数百年以上の鑑賞にたえ得る、極上の芸術品となった。

 葉加瀬&古澤によるアルバムも「完コピ」でやる意義はここにあった。このGRAPPELLI&MENUHINは、すでにクラシカルなマスターピースなのである。グラッペリのアドリブが、譜面に起こして「魂を注ぎ込む」べきマスターピースであることを、メニューインが自分の最上級の経験と、そのパフォーマンスをもって見事に証明したのである。そう、葉加瀬&古澤だけではなく今後も色々な国の色々なタイプのヴァイオリニストたちが、この名盤の「完コピ」を記録に残すであろう。

 なんとも深く、なんとも意義ある、「最上のレコード芸術」がここにある。

鷺巣詩郎(さぎすしろう)

お知らせ
ワールドワイドに活躍中の作曲家、音楽プロデューサーの鷺巣詩郎のブログ「SHIRO'S SONGBOOK ひろば」がついにOPEN!
プロフィール
鷺巣 詩郎
25年以上もの長きにわたり第一線で活躍し続け、驚異的なキャリアを誇る、作曲家、編曲家、音楽プロデューサー。
80年代初頭のアイドル歌謡曲時代から、インストゥルメンタル・アーティスト、近年のシンガー・アーティストに至るまで広範囲にわたり何百何千もの楽曲、アーティストを手掛け、くわえて、映画、TVなど、あらゆる映像音楽(サウンド・トラック)分野でも活躍、あわせて膨大な数の大ヒットを、絶えず世に送り出している。
90年代よりヨーロッパでも活動、パリでのクラブ経営、英仏アーティストの楽曲も手掛ける。また日本人として初めて韓国映画の音楽監督もつとめた。
近年の代表作はMISIA、平井堅、CHEMISTRY、エリーシャ・ラヴァーン、SMAP、「新世紀エヴァンゲリオン」「MUSA」「CASSHERN」など。 自身のアーティスト活動も”SHIRO'S SONGBOOK”シリーズとして継続中、最新CDが2005年8月avexより発売される。
R&B専門誌への長期連載、USENサイトへのコラム、ブログなどの執筆活動も盛ん。現在ロンドン、パリ、東京の3ヶ所に在住。
USENのCS衛星放送SOUND PLANETにて鷺巣詩郎選曲による音楽プログラム『SHIRO'S SONGBOOK』(BF-53チャンネル)が 絶賛放送中! こちらもお聴き逃しなく!





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