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総合TOP > リコメンドインデックス > (隔)週刊 鷺巣詩郎 > 2007/08/01 渡辺貞夫

(隔)週刊 鷺巣詩郎  鷺巣詩郎の選ぶおすすめの1枚
渡辺貞夫 『アイム・オールド・ファッション (HD 16bit/44.1kHz) 』
渡辺貞夫  『アイム・オールド・ファッション (HD 16bit/44.1kHz) 』
TRACK LIST
渡辺貞夫
『アイム・オールド・ファッション (HD 16bit/44.1kHz) 』
渡辺貞夫
『アイム・オールド・ファッション (HD 16bit/44.1kHz) 』
1976 Release
ダウンロード価格
アルバム\1,500(税込)
トラック 各\200(税込)
アーティスト詳細へ
わが国が誇るジャズ・ジャイアント

 こんな作品が「ダウンロードできる」なんて、ホント良い時代になったものだ。オリジナルは、もちろんアナログ盤しかなかった1976年。その後は、かなり前から2〜3回ぐらいはCD化されていた記憶はあるが、現状はもう廃盤だから、CDショップなどではなかなか手に入らない代物だろう。こんな佳作が買えなくなってさびしいけれど、こうして手軽に、しかも、なんと「高音質で」(HD 16bit/44.1kHzでダウンロード可能)手に入るようになったのだから、シアワセだ。
 もちろん僕は1976年の発売時(たぶん発売日)に買ったオリジナルのアナログ盤は今でも持っているが、いかんせん仕事部屋のプレーヤーの回線をミキサーに立ち上げるところから始めなければ、アナログ盤は聴けないので、こうしてサクッとダウンロードできるのだったら、アナログを持っていても思わずダウンロードしたくなってしまう。

 さて、僕らの世代(僕は1957年生まれ)のミュージシャンにとって貞夫さんといえば、以下三つもの面から畏敬の対象となる存在である。

 まず、なんといっても第一には、偉大なるジャズ・ミュージシャン像と、その絶大なる知名度。「ナベサダ」という愛称はジャズ・ファンならずとも広く知れわたっている。いまから40年近くまえ、FMならずAM(ニッポン放送)で人気番組だった【ナベサダとジャズ】(ナベサダという愛称はこのあたりから)は僕も中学生の頃よく聴いていた。そして、その頃よくTVでやっていたTDK(だったと思う)のCMも今でも鮮烈におぼえている……カモメが飛ぶ海景色の背景に貞夫さんのソプラニーノが流れ、貞夫さんがボソっとつぶやく『ジャズっていうのはね、人生なんだよ』……う〜んイイなあ〜、と僕はいつもTVに釘付けになって聴いていたものだ。そのソプラニーノのメロディはいまでも諳(そら)んじて歌えるし、吹けるし、弾けるぐらいだ(笑)。その後はFM東京における長寿番組【マイ・ディア・ライフ】…エアチェックした沢山のカセットが残っているような気がする。そして70年代後期からは“カリフォルニア・シャワー”に代表される作品群がヤマハのスクーターや資生堂のTVCMが大量に流れた。これほどの知名度を誇るジャズ・ミュージシャンは、後にも先にも「ナベサダ」以外には居ない。最近だと愛地球博でのパフォーマンスが印象深かった。

 そして第二には、教育的な側面であろう。60年代、穐吉敏子に次いでバークリーに留学し、まだジャズの教育インフラが整っていなかった日本に、いちはやく「バークリー理論」を持ち込んだ、その功績は計り知れないものがある。当時バークリーから帰国した貞夫さんが、なんとプロ相手に講義を何度も開いたのは有名なハナシである。その理論を列挙した名著【Jazz Study=ジャズ・スタディ】は、我々にとって本当にかけがえのない教科書になった。僕は中学生の頃、3年間でボロボロになるほど(事実、高校に入って2冊目を買った)読み、練習問題、課題に励んだ。それから35年たったが、いま持っている【ジャズ・スタディ】は5〜6冊目ぐらいだと思う。じっさい数多くの後輩ミュージシャンたちにも薦め、彼等もまた自分たちの後輩に薦めたことは間違いない。

 第三には、その先見性。ボサノヴァやアフリカ音楽を誰よりも早く、実践、演奏したのは渡辺貞夫であることを、忘れてはならない。しかも、じっさい60年代からブラジルやケニヤに飛び現地のミュージシャンたちと交わり、さらには、ここがもっとも大事なのだが、それだけではなく、それらを北米というジャズの台所にまで必ずいったん持ち込んでみてから租借したところが貞夫さんのすごいところなのだ。バークリー理論もしかり。貞夫さんがわれわれ日本の後進ミュージシャンにもたらした財産は、たくさんあるのだ。

 そんな、ある種新しい音楽が大好きな貞夫さんであるが、やはりそのプレイの最骨頂はビバップにある。60年代初期チャーリー・マリアーノとの競演作品や自身の作品における、火の出るようなスピードでスリリングなアドリブを繰り出す貞夫さんには、本当にシビれたものだ。そんな貞夫さんの60年代を彷彿とさせるプレイが聴けるのが、この『アイム・オールド・ファッション』。しかもバックは、かのグレート・ジャズ・トリオハンク・ジョーンズロン・カーターの熟練の演奏は、なによりクラッシーきわまりなく豪華。そして今は亡き驚異的なドラマー、トニー・ウィリアムスのシンバル・レガートの粒立ちたるや、なんと美しいことか! もちろん貞夫さんのビバップ・フレーズもいつになく熱い。チャーリー・パーカー“Confirmation”が1曲目というのが何ともウレシイ選曲だ。かつてバークリーから帰国時に貞夫さんが残した「伝説の名演」として名高い、無伴奏アルト・ソロ“Au Privave”を彷彿とさせる。ちなみに、その貞夫さん得意のアドリブの節回しは、その後グレッグ・フィリンゲインズのリーダー・アルバムに参加した際にも炸裂している。

 オリジナル曲もいかにも貞夫さんぽくてメロディック。【ジャズ・スタディ】にも掲載されている美しい名曲バラード“Love Song”や、難易度の高い洗練されたアップとバラードが交互に押しよせる珠玉の作品“America”など、貞夫さんのオリジナル曲が聴きたくなってきた。

 わが国に、渡辺貞夫をしのぐジャズ・ジャイアントが登場するのは、まだまだ先のことか…いや、あらわれるのか心配になってきた。

鷺巣詩郎(さぎすしろう)

お知らせ
ワールドワイドに活躍中の作曲家、音楽プロデューサーの鷺巣詩郎のブログ「SHIRO'S SONGBOOK ひろば」がついにOPEN!
プロフィール
鷺巣 詩郎
25年以上もの長きにわたり第一線で活躍し続け、驚異的なキャリアを誇る、作曲家、編曲家、音楽プロデューサー。
80年代初頭のアイドル歌謡曲時代から、インストゥルメンタル・アーティスト、近年のシンガー・アーティストに至るまで広範囲にわたり何百何千もの楽曲、アーティストを手掛け、くわえて、映画、TVなど、あらゆる映像音楽(サウンド・トラック)分野でも活躍、あわせて膨大な数の大ヒットを、絶えず世に送り出している。
90年代よりヨーロッパでも活動、パリでのクラブ経営、英仏アーティストの楽曲も手掛ける。また日本人として初めて韓国映画の音楽監督もつとめた。
近年の代表作はMISIA、平井堅、CHEMISTRY、エリーシャ・ラヴァーン、SMAP、「新世紀エヴァンゲリオン」「MUSA」「CASSHERN」など。 自身のアーティスト活動も”SHIRO'S SONGBOOK”シリーズとして継続中、最新CDが2005年8月avexより発売される。
R&B専門誌への長期連載、USENサイトへのコラム、ブログなどの執筆活動も盛ん。現在ロンドン、パリ、東京の3ヶ所に在住。
USENのCS衛星放送SOUND PLANETにて鷺巣詩郎選曲による音楽プログラム『SHIRO'S SONGBOOK』(BF-53チャンネル)が 絶賛放送中! こちらもお聴き逃しなく!





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