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総合TOP > リコメンドインデックス > (隔)週刊 鷺巣詩郎 > 2007/07/18 ギル・エヴァンス

(隔)週刊 鷺巣詩郎  鷺巣詩郎の選ぶおすすめの1枚
ギル・エヴァンス 『The Individualism of Gil Evans』
ギル・エヴァンス 『The Individualism of Gil Evans』
TRACK LIST
ギル・エヴァンス
『The Individualism of Gil Evans』
1988 Release
ダウンロード価格
アルバム\1,350(税込)
トラック 各\150(税込)
アーティスト詳細へ
史上もっとも過小評価されている、とてつもないジャズ・ジャイアント

 マイルス・デイヴィスがこれだけ評価されていて、絶えず話題にのぼるのに、ギル・エヴァンスがあまり評価されず、まったく話題にのぼらない…この事実だけは、僕はどうしても耐えがたい。
  いわずと知れたマイルスの名盤の海の中でも、とくに素晴らしい『Birth of the Cool』(1950)、『Miles Ahead』(1957)、『Porgy and Bess』(1958)、『Sketches of Spain』(1960)……当たりまえだが、これらはマイルスのリーダー・アルバムである。が、しかし、実際は100%そうではない。そう、これらはすべてギル・エヴァンスのコンセプト、アイデア、そして編曲(これが一番重要)によるアルバムであり、まさにギルなしには生まれ得なかった傑作なのだ。
  それが証拠に、ミュージシャン、評論家たちがこれらの作品を列挙して語るとき、彼等は多くの場合、これらの作品をマイルス&ギルの作品として連名で紹介する。たとえば「ああ、あのマイルス・デイヴィスとギル・エヴァンスの『Porgy and Bess』というアルバムはね〜」というような具合だ。
  僕はいつも「優れた黒人音楽を完成させるには、ぜったい優れた白人が必要」と言ってきたが、このマイルスとギルの黒白相互関係こそ、それを初めて痛感した、もっとも顕著、かつ美しい例なのである。

 「類(たぐい)まれなる」という形容があるが、ギル・エヴァンスの編曲=ジャズ・オーケストレーションは、まさにこの形容がふさわしい。他の編曲家とはまったく異なったアプローチで成り立っているからだ。それらを音楽的に、具体的に書くには、この紙面ではとうてい足りない。
  ごく一例をあげよう。たとえば「一般的に」ジャズ・オーケストラといえば、40〜50年代に確立され、60〜70年代に隆盛、後の音楽史にも残るべき数々の音楽理論をも生みだし、21世紀の今でももちろん脈々と受け継がれている「フル・バンド=ビッグ・バンド編成という定型、ひな型」を指すことが圧倒的に多い。それは、4人のトランペット、4人のトロンボーン(うち一人はバス)、5人のサキソフォーン=2人のアルト、2人のテナー、1人のバリトン(さらにサキソフォーン奏者たちはフルートやクラリネット、時にはソプラノ・サックスなども持ちかえて演奏する)、つまり合計13人のホーンセクション+リズムセクション、これが世に言うところのビッグ・バンドの正式な編成だ。しかし編曲家ギル・エヴァンスは終始一貫して、この「定型」編成を拒み、常にみずからのオリジナル編成によるオーケストラで、レコーディングにもライヴにも臨んだ。クラシカルな木管、フレンチホルン、チューバなどを多用して、独自のハーモニーを紡いだ。それは、もちろん楽器編成だけによるものではなく、当然スコアリング(実際に書かれた譜面)による効果もあったろう。他の大編成ジャズとはまったく違った、そういうサウンドは当アルバム『The Individualism of Gil Evans』から、とくに色濃く感じられるはずだ。

 70年代、僕はニューヨークで2回、東京で2回、計4回にわたり彼のオーケストラのライブを観ている。東京ではホールだったが、ニューヨークではライブハウスだったし、しかも彼のオーケストラがレギュラーで出演していたヴィレッジ・ヴァンガードでの演奏だったので、ひじょうに印象ぶかかった。当時のメンバーはスター揃いだった。トランペットには素晴らしいリーダー・アルバムも残したハンニバル・マーヴィン・ピーターソン、元BS&Tのルー・ソロフ、チューバは名手ハワード・ジョンソン、パーカッションには紅一点スーザン・エヴァンス、ギターはわが川崎燎、そして、もう1人わすれてはならないプレーヤーが居た。そう、デヴィッド・サンボーンである。僕が初めて、デヴィッド・サンボーンという極めて個性豊かなアルト・サキソフォニストの名前と存在を知ったのは、70年代初頭だったが、その特異なプレイ・スタイルに心の底から初めてたまげたのは、『Plays the Music of Jimi Hendrix』(1974)、『There Comes a Time』(1975)という、2枚のギル・エヴァンスのアルバムでの彼のプレイに、である。 冒頭1曲目、とてもアルト・サックスとは思えない、それまでの常識を覆す、切り裂くようなヒステリックなトーンでアドリブを開始するデヴィッド・サンボーンの凄まじさったらない。あの衝撃は、いまでも本当に忘れがたい。

 アヴァンギャルドな和音、スタイル、奏者、楽器、インプロヴィゼーションなど、あらゆる斬新なサウンドが、ギルの白髪の内側、つまりギルの脳からあふれ出ているようだった。そのカラフルなオーケストレーションとパフォーマンスに圧倒された。こういうたぐいの圧倒のされ方は、このギル・エヴァンスとジョー・ザヴィヌルの2人から得られただけだった。ジョーはウェザー・リポートを率いて商業的にも成功をおさめ、地位も名声も、もちろんかなり評価もされている。しかし、ギルはどうだろう?

  そう考えるたびに、僕はやりきれない。そして、いつも彼の作品を聴きなおす……そうだ、間違いない、と再確認する。彼の音楽は20世紀が誇る最高の芸術のひとつに間違いない、と。

鷺巣詩郎(さぎすしろう)

お知らせ
ワールドワイドに活躍中の作曲家、音楽プロデューサーの鷺巣詩郎のブログ「SHIRO'S SONGBOOK ひろば」がついにOPEN!
プロフィール
鷺巣 詩郎
25年以上もの長きにわたり第一線で活躍し続け、驚異的なキャリアを誇る、作曲家、編曲家、音楽プロデューサー。
80年代初頭のアイドル歌謡曲時代から、インストゥルメンタル・アーティスト、近年のシンガー・アーティストに至るまで広範囲にわたり何百何千もの楽曲、アーティストを手掛け、くわえて、映画、TVなど、あらゆる映像音楽(サウンド・トラック)分野でも活躍、あわせて膨大な数の大ヒットを、絶えず世に送り出している。
90年代よりヨーロッパでも活動、パリでのクラブ経営、英仏アーティストの楽曲も手掛ける。また日本人として初めて韓国映画の音楽監督もつとめた。
近年の代表作はMISIA、平井堅、CHEMISTRY、エリーシャ・ラヴァーン、SMAP、「新世紀エヴァンゲリオン」「MUSA」「CASSHERN」など。 自身のアーティスト活動も”SHIRO'S SONGBOOK”シリーズとして継続中、最新CDが2005年8月avexより発売される。
R&B専門誌への長期連載、USENサイトへのコラム、ブログなどの執筆活動も盛ん。現在ロンドン、パリ、東京の3ヶ所に在住。
USENのCS衛星放送SOUND PLANETにて鷺巣詩郎選曲による音楽プログラム『SHIRO'S SONGBOOK』(BF-53チャンネル)が 絶賛放送中! こちらもお聴き逃しなく!





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