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総合TOP > お役立ちインデックス > OnGenアーカイブス > (隔)週刊 鷺巣詩郎 > 2007/04/04 中森明菜

(隔)週刊 鷺巣詩郎  鷺巣詩郎の選ぶおすすめの1枚
中森明菜 『CRIMSON』
中森明菜 『CRIMSON』
80年代という時代を、自分の音で振り返れば…

このところジャズ・ミュージシャンたちの作品ばかりがずーっと続いたので、今回は少し毛色を変えて邦楽女性アーティストを紹介しよう。その名は中森明菜!

 すでに本リコメンド・ページでは、僕自身が作曲、アレンジ、プロデュース参加した作品としてMISIAのアルバム、そして、参加作品ではないが、30年もの付き合いである(氏の楽曲をアレンジさせていただいた)筒美京平氏のベスト集を紹介したが、この『CRIMSON』は、今から20年以上まえに僕がアレンジャーとして参加したもの。発売当時(1986)はアナログ盤で、10曲中5曲が作曲:竹内まりや=編曲:椎名和夫コンビ、残りB面5曲が作曲:小林明子=編曲:鷺巣詩郎コンビというラインナップである。

 あ、まず最初に申し上げておくが、正直なハナシ僕は中森明菜ご本人には一度もお会いしたことがない(笑)。「タレント vs アーティスト」「歌謡曲 vs ニューミュージック(死語だけど)」「アイドル vs J-POP」などの区分けが正しいか?妥当か?とかいう問題はさておき、たしかにそれぞれの対比は、僕らアレンジャーが主役のシンガーに会う確率が「低い vs 高い」に、確実に置き換えられるかもしれない。
  おなじく僕は、田原俊彦からSMAPまで数多くのジャニーズ事務所のシンガー達の作編曲を20数年やっているが、これまた誰ひとりとしてお会いしたことはない。ま、会ったとしてもスタジオでほんの一瞬、しかも紹介されてもすれ違いざまに社交辞令をかわす程度だ。

 主役のリード・ボーカリストがいなくて、どうしてバッキング・トラックが制作できるの?と不思議に思われるかもしれないが、われわれの現場には「仮唄(かりうた)」「ガイド・ボーカル」をスタジオ・ボーカリストが唄い、あらかじめ録音したそのガイドと共にバッキング・トラックを制作していく、というシステムがある。マルチトラック・レコーディングが本格的になった70年中期からのシステムだ。こうしておけば「超多忙が勲章」である主役シンガーの彼ら彼女たちは、移動の最中にそれら仮唄入りのラフ・トラックをカセットで聴きながら練習をして、自身のボーカル・レコーディングにそなえられるし、おなじく「超多忙な」われわれアレンジャーもまた、彼ら彼女たちがボーカル・レコーディングを始める頃(数日後)には、すでに違う現場(スタジオ)で次の仕事に入っている、というのが当時の第一線のスタンダードだった。多忙かどうかはともかくとして、現在も依然そういうプロダクションはわりと多いのではないだろうか。

 ちなみに、曲を書いた小林明子とは長いつきあいだ。80年代初頭はじめて作曲家の亀井登志夫から紹介されたとき、まだ彼女はフツーのOLだった。CM仕事で最初に唄いに来てもらってから何年か経ち、あの「恋におちて」の大ヒットがをはさんでも、さらに幾度も仕事を共にした。彼女自身のアーティスト作品、そして、この中森や森口博子のように彼女が提供した楽曲を、僕がアレンジしたのだ。その後90年代以降も何回かLondonで会っている。
本人たちには会わずとも、その曲を書いた作家とは作家同士だから、アーティスト=作家であろうが打合せも密にしなければならない。スタジオ内外でイヤでも何度も会うことになる。そして後先いろんな例はあるが、だいたいその作家=アーティスト自身の作品もアレンジしている例が多い。このように「小林明子作品と、小林が書いた中森、森口作品」とか「八神純子作品と、八神が書いた河合奈保子作品」とか「広瀬香美作品と、広瀬が書いた内田有紀」といった具合である。こうした仕事の流れは、僕らアレンジャーの典型的な体系だろう。
 
この頃の中森明菜は、われわれ業界の頂点に君臨していた。アイドルの王道を走ってはいたが、万国共通「大物」女性歌手が持つ独特のオーラのようなものが、デビュー2〜3年後から急激に備わってきたのだ。松田聖子とはまったく違った「大物感」。同期の小泉今日子、早見優松本伊代、堀ちえみ、石川秀美も人気は高かったが、よい意味であくまでアイドルという枠の中の完成品。彼女たちとは別次元だった。同期たちを脇目に中森だけが円熟を突き抜けてどんどんアーティスティックにつき進んでいったのだ。僕は小泉、早見、松本、堀、石川の楽曲も手がけていたので、そのあたりの機微を今でもひじょうによくおぼえている。
なにしろ誰しも皆、3ヶ月ごとに新曲(シングル)を出していた時代。バッキング・トラックの制作(レコーディング)現場は、ほんとうに嵐のような毎日だったし、なにより、そうしないとトップを維持できないだった時代だったのだ。そんな即効性の勝負ばかりをブレーンの主とした時代に、この『CRIMSON』のようなコンセプト・アルバムで勝負をかけられた中森明菜は、やはり突出した存在たったのだ。
 
  今、こうしてアルバムを聴きかえしてみる。自分のトラック5曲については「80年代そのもの」の音がしている。Oberheim社のXpander、Roland社のSuper Jupiter、Yamaha社のDX-5などのシンセサイザー類や、Roland社のTR-808やYamaha社のRXといったリズムマシン類の音色が、象徴的なニオイをかもし出している。圧倒的な存在感(笑)だ。アナログ・シンセ→デジタル・シンセ→ソフト・シンセと進化してしまった現在は、逆にこういう音色は出しにくくなってしまった。そして打込みは数台のRoland社のMC-4シークエンサーを走らせたもの。このタイム感覚と、一台につき4声までという和音構築が「スコア上のアレンジ」にも決定的な特徴をもたらしている(くわしく分析するとキリがない)。ま、すべて自分でやっていたことなので手に取るようにわかるのは当たりまえか。

 それらシンセ類とは違い、生楽器のストリングスや管楽器に関しては、リヴァーブなどの残響の処理もふくめて、もう「エッセンシャル」の一言。何といってもやはり絶対的に気持ちよい。
  数年前、とある同業者から「このアルバムの鷺巣さんのトラックをすり減るように何度も聴いて分析した」と言われたことがある。機材的なことではなく「アレンジにおける和音構成」の分析(これも、くわしく書くとキリがない)。オーケストラ系の生楽器のアレンジをはじめ、やはり「書き譜=スコア」というのは時代に左右されないのだなと思い知らされた。


鷺巣詩郎(さぎすしろう)

お知らせ
ワールドワイドに活躍中の作曲家、音楽プロデューサーの鷺巣詩郎のブログ「SHIRO'S SONGBOOK ひろば」がついにOPEN!
プロフィール
鷺巣 詩郎
25年以上もの長きにわたり第一線で活躍し続け、驚異的なキャリアを誇る、作曲家、編曲家、音楽プロデューサー。
80年代初頭のアイドル歌謡曲時代から、インストゥルメンタル・アーティスト、近年のシンガー・アーティストに至るまで広範囲にわたり何百何千もの楽曲、アーティストを手掛け、くわえて、映画、TVなど、あらゆる映像音楽(サウンド・トラック)分野でも活躍、あわせて膨大な数の大ヒットを、絶えず世に送り出している。
90年代よりヨーロッパでも活動、パリでのクラブ経営、英仏アーティストの楽曲も手掛ける。また日本人として初めて韓国映画の音楽監督もつとめた。
近年の代表作はMISIA、平井堅、CHEMISTRY、エリーシャ・ラヴァーン、SMAP、「新世紀エヴァンゲリオン」「MUSA」「CASSHERN」など。 自身のアーティスト活動も”SHIRO'S SONGBOOK”シリーズとして継続中、最新CDが2005年8月avexより発売される。
R&B専門誌への長期連載、USENサイトへのコラム、ブログなどの執筆活動も盛ん。現在ロンドン、パリ、東京の3ヶ所に在住。
USENのCS衛星放送SOUND PLANETにて鷺巣詩郎選曲による音楽プログラム『SHIRO'S SONGBOOK』(BF-53チャンネル)が 絶賛放送中! こちらもお聴き逃しなく!





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