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総合TOP > お役立ちインデックス > OnGenアーカイブス > (隔)週刊 鷺巣詩郎 > 2007/03/07 ハービー・ハンコック

(隔)週刊 鷺巣詩郎  鷺巣詩郎の選ぶおすすめの1枚
ハービー・ハンコック 『Fat Albert Rotunda』
チャーリー・パーカー 『Confirmation: The Best Of The Verve Years』
TRACK LIST

ハービー・ハンコック
『Fat Albert Rotunda』

1969 Release
ダウンロード価格
アルバム\800(税込)
トラック 各\150(税込)
アーティスト詳細へ
われわれミュージシャンの間で「ウラ」名曲「ウラ」名演として親しまれているのが……

 世紀の名盤『Speak Like A Child』に続いて2回目となるハービー・ハンコックの紹介だ。
 さて、今回はまず早々と先に極論を言ってしまう。「このアルバムは1曲だけのハイライトのために存在する」。それほどの名曲が収録されている、という意味だ。

 “Tell Me A Bedtime Story”である。

 前回にもハービー・ハンコックというミュージシャンの不世出の天才ぶりについては、さんざん書いたが、今回さらに付け加えるならば、ハービーは「リフ作りの天才」でもある。
 その証明は、世界中のピアニストたちがライヴ、コンサートでのサウンド・チェック、そしてレコーディング・スタジオにおける音決め、自宅での練習時、つまり、ありとあらゆるシチュエーションにおいて一度は必ずや試し弾いたであろう“Watermelon Man”のテーマ・リフにはじまる。
 分数和音のリズミックな羅列をアイコン(リフ)化してしまった“処女航海”という名曲。分数和音自体はまったく新しいことではないが、それを定期的に連打することで記号化したのが画期的なのである。わかりやすい例えをあげよう。ビートルズの“The Long and Winding Road”である。唄い出しの‘The Long and Winding Road〜’というヴォーカル・メロディを受けて、オーケストラが分数和音で‘ジャ、ジャー、ジャ、ジャーン’と奏でる部分は、メロディと同じぐらい、いや、それ以上に聴くものに強烈な印象をうえつけていることは、誰でも容易に理解できよう。印象的なメロディーの一部分を指して、ポップス分野では「フック」と呼び、流行歌を完成させるためには絶対に無くてはならない要素として普遍的に求追求されているが(日本でいうところの「わかりやすいサビ」というのもフックの一種である)、それらはヴォーカルであれギター・リフであれ「メロディーであって、和音ではない」のが常である。しかし“The Long and Winding Road”で、ポップス史上はじめて「和音の連打によるフック」が登場したのである。ここまで説明すれば、もうおわかりかと思うがハービーはジャズ史上はじめてそれをテーマ・リフ化させたのだ。もちろん“Maiden Voyage”にはテーマ・メロディは存在するが、イントロの分数和音の羅列を聴いただけで、すでにオーディエンスから大きい拍手喝采がわき起こるのは、ひとえにハービーのリフ作りの才によるものだ。
 さらに前回とりあげたように、ホーン・セクションのメロディではなく、とびきり美しい和音の響きの連続をリフとするという、これまた画期的な偉業を成し遂げた名曲“Speak Like A Child”
 古今東西、プロアマ問わずミュージシャンであれば、やはり誰しもが一度は絶対に奏でているであろうベース・ライン。反復リフとしては世界最強のフックを持つ“Chameleon”。
 さらにはタムタムの連打までリフにしてしまった“Rock It”などなど、これほど長期、多岐にわたり画期的なリフを量産したミュージシャンなんてハービーしか居ない。

 リフ作りの天才が書いた、この“Tell Me A Bedtime Story”は「同一メロディーを、和音進行によって異なるメロディに聴こえさせる」魔法が詰まった名曲だ。
 チック・コリアと並び、世界でもっともRhodes(エレクトリック・ピアノの名器)を美しく鳴らせることの出来るミュージシャン、ハービーの面目躍如。そのRhodesが奏でるイントロは、膨大なハービーの楽曲群の中でも際立って美しい。後にハービーと共にこの曲の「名カヴァー」を成し遂げたクインシー・ジョーンズ版の“ Bedtime Story”で、なんとクインシーはこのイントロ・メロディをヴォーカライズしている(唄わせている、という意)。歌詞はもちろん‘Tell Me A Bedtime Story, Now’と唄っている(笑)。
 そのイントロを受けて登場する、8分音符のピックアップを含む8小節のメロディがこの曲のメイン・リフであり、以降、背景和音だけは変化していくのだがこのメロディは変わらない。そしてメロディ後に登場するのが、8分音符のシンコペーションを強調したリフ。これぞ“Maiden Voyage”で実践されたとおりの、メロディではなく和音の羅列による「リフ作り」。“Maiden Voyage”から発展しているのは「同一和音」ではないこと。ゆえに“Maiden Voyage”のような「わかりやすい」完成度は無いが、逆に“Bedtime Story”のファンタジー性、ミステリアス性を醸し出すことには大いに成功しており、この一風変わったリフをこの曲中もっとも印象的なパートに昇華させている。そしてテーマを2周してから登場するのが「5拍子のリフ」。これは“Maiden Voyage”に似た、同一分数和音による連打である。この部分もまた、この曲のコアとして非常に印象的。同じくクインシー+ハービーによるカヴァーではポルタメントのかかったシンセが、この5拍子のブルーノート・リフを奏でる。
 さて、テーマ同様の和音進行上で繰り広げられるハービーのアドリブは、いかにもRhodes然としたもの。これはクインシー+ハービーによるカヴァーが強力! クインシーがガイド・クリック(メトロノーム)と共にハービーによるRhodesのアドリブだけを「まったくのア・カペラ状態で」先にレコーディングしておき、その上からヴァイオリンに特化したストリングス・オーケストラをかぶせていったのである。ハービーの即興演奏すべてをコピーして、スコアリング(譜面化)して、数十本のヴァイオリンでユニゾンさせてしまったのだからスゴい。ハービー得意のトレモロや、手癖までもが、すべてオーケストレーションされており、まさしく圧巻。こちらも名盤として大いにオススメだ。

 われわれミュージシャンの間では常に、ハービーの「ウラ」名曲「ウラ」名演として親しまれている“Tell Me A Bedtime Story”に、あえて今回はスポットライトを当ててみた。ぜひとも一度は聴いて欲しい。

鷺巣詩郎(さぎすしろう)

お知らせ
ワールドワイドに活躍中の作曲家、音楽プロデューサーの鷺巣詩郎のブログ「SHIRO'S SONGBOOK ひろば」がついにOPEN!
プロフィール
鷺巣 詩郎
25年以上もの長きにわたり第一線で活躍し続け、驚異的なキャリアを誇る、作曲家、編曲家、音楽プロデューサー。
80年代初頭のアイドル歌謡曲時代から、インストゥルメンタル・アーティスト、近年のシンガー・アーティストに至るまで広範囲にわたり何百何千もの楽曲、アーティストを手掛け、くわえて、映画、TVなど、あらゆる映像音楽(サウンド・トラック)分野でも活躍、あわせて膨大な数の大ヒットを、絶えず世に送り出している。
90年代よりヨーロッパでも活動、パリでのクラブ経営、英仏アーティストの楽曲も手掛ける。また日本人として初めて韓国映画の音楽監督もつとめた。
近年の代表作はMISIA、平井堅、CHEMISTRY、エリーシャ・ラヴァーン、SMAP、「新世紀エヴァンゲリオン」「MUSA」「CASSHERN」など。 自身のアーティスト活動も”SHIRO'S SONGBOOK”シリーズとして継続中、最新CDが2005年8月avexより発売される。
R&B専門誌への長期連載、USENサイトへのコラム、ブログなどの執筆活動も盛ん。現在ロンドン、パリ、東京の3ヶ所に在住。
USENのCS衛星放送SOUND PLANETにて鷺巣詩郎選曲による音楽プログラム『SHIRO'S SONGBOOK』(BF-53チャンネル)が 絶賛放送中! こちらもお聴き逃しなく!





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