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(隔)週刊 鷺巣詩郎  鷺巣詩郎の選ぶおすすめの1枚
カウント・ベイシー 『JAZZ MASTERS』
チャーリー・パーカー 『Confirmation: The Best Of The Verve Years』
ベイシーは僕の神様、史上最高の音楽にして、最良のお手本

 カウント・ベイシーは僕にとって常に至上の存在である。そして彼のビッグ・バンド(フルバンド)は僕の教科書…そう、義務教育。
 このリコメンドの第2回(リンク)にサド・ジョーンズ&メル・ルイスの双頭オーケストラについて書いた。たしかに、あのアルバムは大傑作であり、長いジャズ史上、突出した名盤である。音楽的にも完璧である。しかし、それはあくまでも「地上の出来事」。ベイシーは僕にとって、いや、ジャズをはじめとする黒人音楽を奏でる世界中のミュージシャンにとっては、まさに「天上の存在」である。
 僕にベイシーを語らせたたらキリがない。だから、この先もベイシーのアルバムは何枚も、ここで紹介することになるだろう。だから今回はその序章だ。うん、ベイシーの何から語ろうか……。

 たとえばベイシーは自己のピアノ・トリオでもビッグバンドでも、いかなる場合の自分が主役のアドリブ・ソロでも、本当に音数が少ない。しかし、その音の存在感たるや、他を圧倒している。バカテク・ギタリスト世界一のジョー・パスが相手でも、その百分の一の音数でギターの存在感を凌駕する。しかし、なんといっても圧巻なのは彼のビッグバンドがフォルテシモで咆哮している合間をぬって、絶妙のタイミングで「ピロンッ(擬音です)」と入る、彼自身の一音、ニ音のピアノではなかろうか。そのピアノは、まずそれ自身際立つのと同時に、そのリズムでビッグバンド全員を完璧に統制する役割も果たしている。
 優れた「リズム感」は、一瞬にして大人数を統治することが可能だ。が、それがいかに難儀であるかは、想像を絶する。かのカラヤンや、このベイシーなど、ごく限られた指揮官のみが「天才」と呼ばれるゆえんでもある。

 ベイシーの天才性が発揮されたエピソードも紹介しよう。このアルバムにも収められている「Lil' Darlin'」という、相当スローなバラードのマスターピースがあるが、この譜面(アレンジ)が仕上がってきた当初、じつはこの曲には相当なアップ・テンポが指定されていた。
 が、譜面を一瞥したベイシーはスロー・テンポでカウントを出して、皆を驚嘆させたという。
 しかし、そのベイシーが示したテンポが、いかにジャストなテンポであったかは、後のこの曲の輝かしき栄光が証明している。

 BPM(ビート・パー・ミニュッツ)とか、その数値を具体的に“120”とか、“90”前後などと表現するようになったのは、ここ最近のことである(20年ぐらいか)。まず僕がスタジオで仕事をはじめた時代はクリック(メトロノームを聴きながらレコーディングをすること)さえ使われてなかったし、のちにクリックを使うようになっても、テンポは数値ではなく単なる「ツマミ」をまわして決めていたに過ぎない。
 正直に告白するなら、僕は今現在でさえ、このようにテンポを数値で表現するのが、あまり好きではない。その形容として「ミディアム」とか「スロー」とか言われるのはよいのだが、音も出す前から「BPM(テンポ)は96で…」などと言われると、何かが自分の中で萎える気がする。

 シンガーが「もうチョット遅くしない?」、ドラマーが「もうキモチ早い方が俺はノリ易いんだけどなあ…」みたいなやりとりがあって、はじめて決まるのが「テンポ」であり、僕らはその曲にいちばんのジャストなテンポを、そうやって試行錯誤しながら決めるのが当りまえ。
 そしてベイシーのような稀なる選ばれし天才のみが、瞬時にそれを決められる特権を有しているのである、と僕は考える。

 そう、僕は「テンポの神様」信奉者。
 「リル・ダーリン」を聴くと、やはりこの曲にはこのテンポ以外はあり得ない、と思うからだ。こんな美しい曲がこの地球上に存在してるのは「テンポの神様」が宿ったから、ベイシーがそうさせたから、と信じている。
 ちなみに同じ理由で、マーヴィンスティーヴィーのマスターピースにも「テンポの神様」は宿っている、と僕は信じている。
 だから「テンポ」だけは徹底的にこだわる。クリックをシークエンサーでコントロールする近代レコーディングにおいては、結果としては(数字としては)BPM(テンポ)が小数点になることも多い。

 ミックスが終わり、すでにマスターが完成しても、まだなんか違うと思ったら、昔はマスターを廻すテープレコーダーの回転を変えてみたりしていた。今はデジタルで(コンピューターの演算で)、テンポをいじったりすることも確かにある。
 またライブでの演奏テンポはレコード以上に重要なのは言うまでもない。そのライブがいかに盛り上るか盛り上らないかは各曲のテンポ・コントロールにかかっている。聴衆の反応で演奏テンポを可変させることも何より大切だ。
 逆に言えば「テンポを制することで、聴衆をコントロールすること」も大いに可能なのだ。

 かように「テンポ」なるものが、黒人音楽の要であることを、僕はベイシーから学んだ。彼のビッグバンドは史上最高の音楽にして、常に最良のお手本でもある。

鷺巣詩郎(さぎすしろう)

プロフィール
鷺巣 詩郎
25年以上もの長きにわたり第一線で活躍し続け、驚異的なキャリアを誇る、作曲家、編曲家、音楽プロデューサー。
80年代初頭のアイドル歌謡曲時代から、インストゥルメンタル・アーティスト、近年のシンガー・アーティストに至るまで広範囲にわたり何百何千もの楽曲、アーティストを手掛け、くわえて、映画、TVなど、あらゆる映像音楽(サウンド・トラック)分野でも活躍、あわせて膨大な数の大ヒットを、絶えず世に送り出している。
90年代よりヨーロッパでも活動、パリでのクラブ経営、英仏アーティストの楽曲も手掛ける。また日本人として初めて韓国映画の音楽監督もつとめた。
近年の代表作はMISIA、平井堅、CHEMISTRY、エリーシャ・ラヴァーン、SMAP、「新世紀エヴァンゲリオン」「MUSA」「CASSHERN」など。 自身のアーティスト活動も”SHIRO'S SONGBOOK”シリーズとして継続中、最新CDが2005年8月avexより発売される。
R&B専門誌への長期連載、USENサイトへのコラム、ブログなどの執筆活動も盛ん。現在ロンドン、パリ、東京の3ヶ所に在住。
USENのCS衛星放送SOUND PLANETにて鷺巣詩郎選曲による音楽プログラム『SHIRO'S SONGBOOK』(BF-53チャンネル)が 絶賛放送中! こちらもお聴き逃しなく!

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30005900580
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