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総合TOP > お役立ちインデックス > OnGenアーカイブス > (隔)週刊 鷺巣詩郎 > 2007/02/07 マイルス・デイヴィス

(隔)週刊 鷺巣詩郎  鷺巣詩郎の選ぶおすすめの1枚
マイルス・デイヴィス 『Birth Of The Cool』
チャーリー・パーカー 『Confirmation: The Best Of The Verve Years』
TRACK LIST

マイルス・デイヴィス
『Birth Of The Cool』

1949 Release
ダウンロード価格
アルバム\1,500(税込)
トラック 各\150(税込)
アーティスト詳細へ
偉大な音楽家マイルスにとっては単なる通過点、しかし20世紀のジャズを語るうえでは、このうえない名盤

 なんで今までマイルスをリコメンドしなかったのだろう? ああ、なんたることか!

 僕はこのトシ(今年で50歳)にしては、けっこうマイルスのライブを観ているほうだ。70年代からパリでの最後の集大成ライブまで20年もの間、日米仏の3カ国にわたり十数回は観た。後にも先にもマイルス・デイヴィスというアーティストだけが発することができる「背筋が凍りつくようなエクスタシー」を、この身を持って十数回も体験できた幸せモノだと思っている。
 幼少時から教会でオルガンを弾いたりして、それなりに音楽に馴れ親しんではきたが、本格的にジャズというか、音楽という「偉大なるアート」にハマっていく僕の最大のきっかけは、12〜13歳のときに聴いたマイルスの『Bitch's Brew』という歴史的名盤。同時期、同世代に普遍的であったBeatlesという洗礼をいっさい受けなかったことも幸いしてか、僕は「マイルスを中心としたジャズ」をどんど溺愛していくのだが…(もちろんBeatlesは、後からよく聴くようになった)…ま、こういう話題になると、また話はかぎりなく逸れていくので、このへんにしておこう。

 ご存知のとおり『Bitch's Brew』というのは歴史的名盤であると同時に、マイルス最大の問題作でもあった。いわゆる「電化マイルス問題」である。簡単にいうと、ジャズの電化というものをいっさい認めない、というか認めたくないリスナーたちが踏み絵にしたアルバムでもあったのだ、この『Bitch's Brew』は。
 ただし、なにせ僕はその踏み絵を一番最初に聴いて、そこから先に好きになってしまったのだから、電化なんて全然気にしなかったのは当たりまえというか、これまた幸せだっというか(笑)。それからは、『Bitch's Brew』から逆行してマイルス・デイヴィスというアーティスト史を遡って聴いていったのである。マイルスすべてのレコードを聴きあさり、ライブも観つづけて、ついに、たどり着いたのは「マイルスはマイルスであり、いつの時代もまったく変わらない」という、ごく当たりまえの結論である。

 マイルスは、レコードであろうが、ライブであろうが、アコースティックであろうが(当時はアンプラグドとかオーガニックなんていう例語は存在しなかった)、電化であろうが、いつ何時でも「まったく変わらない」独自の背筋が凍りつくようなエクスタシーを発することができる、とんでもないアーティストであり、これこそが後にも先にもマイルスにしか出来ないこと…「たった一音でその場の空気を一変させてしまうこと」なのだ。そう、もちろん「自分(マイルス)一色の空気に」である。

 チャーリー・パーカーらとのビバップ時代もしかり…それから一転してこの『Birth of the Cool』からはじまるギル・エヴァンスとの素晴らしい作品群でもそう…『Kind of Blue』で画期的なモード解釈による新しいジャズを開拓したときだって…そして、モダンジャズ史上、最強のコンボ=ラヴェルやドビッシーが乗り移ったかのように美しいH・ハンコックのピアノ、研ぎ澄まされた名刀のように鋭いT・ウイリアムスのシンバルレガート、それらにしなやかに絡むR・カーターのベースを従えたときもそう…さらには、電化してから、後に各方面で才能が開花するR・ルーカス(マドンナとの仕事)のギター、M・ヘンダーソン(シンガー・アーティストとして成功)のベース、エムトゥーメイ(ソウル界きってのプロデューサーに成長)のパーカッションを従えたときも…マイルスはいつ如何なるときも「もっとも意外なタイミングで」吹き出し、「たった一音、まさに触るように発しただけで」それらバックを、それら黄金のリズム隊を意のままに、まるで黙らせるように統治した。彼の一音は、それまでの空気を切り裂いた。その切り口からはマイルス独特の色彩が溢れだし、またたくまにその場の空気を一変させた。その瞬間、マイルス以外すべての人間が感じる「背筋が凍りつくような」エクスタシーは、他にたとえようがない唯一無比の、マイルスだけのものだ。

 このアルバムに代表される、マイルスが生み出した<クールという枠組み>は、短い観点からは「ビバップ(ホット)への反動」「脱ビバップ」「ポスト・ビバップ」という解釈になる。それはそれで決して間違いではない、正解だ。ギル・エヴァンスという大きな才能をもあぶり出すことにも成功した、この<クールの誕生>はレヴォリューショナルな出来事であったし、このアルバムやマイルスが率先することによって<クール>の名の下に他にも素晴らしいレコード芸術=名盤も世に出た。
 しかし、もっと長い観点から、マイルスの生涯を考えた場合、この<クール>の後にも、これまた20世紀のジャズ界にとって最大のイノベーションである<モードによる解釈>や、晩年の<ファンク>などが押し寄せてくるのだ。そう考えると、このアルバム『Birth of the Cool』はマイルスにとっては「ほんの通過点」にすぎない。しかし20世紀のジャズ界にとっては「このうえない名盤」。Milestone(マイルストーン)=「マイル標石」の意もあり、「歴史上画期的な出来事」の意もある。まさしく、そんなところだ。そういえばマイルスには、さらにMile's Tone「マイルスの音」という意も引っ掛けた名曲もあったっけ……。

 ああ、けっきょく、とりとめのない文章になってしまった。
 やはりマイルスについては到底一回だけで語りつくせるものではない。この20世紀を代表する偉大な音楽家については、今後もまた、ぜひ取り上げていきたい。

鷺巣詩郎(さぎすしろう)

お知らせ
ワールドワイドに活躍中の作曲家、音楽プロデューサーの鷺巣詩郎のブログ「SHIRO'S SONGBOOK ひろば」がついにOPEN!
プロフィール
鷺巣 詩郎
25年以上もの長きにわたり第一線で活躍し続け、驚異的なキャリアを誇る、作曲家、編曲家、音楽プロデューサー。
80年代初頭のアイドル歌謡曲時代から、インストゥルメンタル・アーティスト、近年のシンガー・アーティストに至るまで広範囲にわたり何百何千もの楽曲、アーティストを手掛け、くわえて、映画、TVなど、あらゆる映像音楽(サウンド・トラック)分野でも活躍、あわせて膨大な数の大ヒットを、絶えず世に送り出している。
90年代よりヨーロッパでも活動、パリでのクラブ経営、英仏アーティストの楽曲も手掛ける。また日本人として初めて韓国映画の音楽監督もつとめた。
近年の代表作はMISIA、平井堅、CHEMISTRY、エリーシャ・ラヴァーン、SMAP、「新世紀エヴァンゲリオン」「MUSA」「CASSHERN」など。 自身のアーティスト活動も”SHIRO'S SONGBOOK”シリーズとして継続中、最新CDが2005年8月avexより発売される。
R&B専門誌への長期連載、USENサイトへのコラム、ブログなどの執筆活動も盛ん。現在ロンドン、パリ、東京の3ヶ所に在住。
USENのCS衛星放送SOUND PLANETにて鷺巣詩郎選曲による音楽プログラム『SHIRO'S SONGBOOK』(BF-53チャンネル)が 絶賛放送中! こちらもお聴き逃しなく!





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