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総合TOP > お役立ちインデックス > OnGenアーカイブス > (隔)週刊 鷺巣詩郎 > 2006/12/20 マンハッタン・トランスファー

(隔)週刊 鷺巣詩郎  鷺巣詩郎の選ぶおすすめの1枚
マンハッタン・トランスファー『Extensions』
マンハッタン・トランスファー 『Extensions』
TRACK LIST
マンハッタン・トランスファー
『Extensions』
1979 Release
ダウンロード価格
アルバム\1,200(税込)
トラック 各\150(税込)
アーティスト詳細へ
ヴォーカルグループとして、ながく生きぬくには…

 マンハッタン・トランスファーの名をポップス・ファンに一気に知らしめた佳作である。
  もともと彼等のポジションは微妙だった…正直「ジャズ・ヴォーカルグループ」と呼べるほどスキルフルなヴォーカル「ハーモニー」グループではないし、だいいちテンションたっぷりのジャズ・ハーモニー構成に(彼等)4人=4声編成では足りない。たとえばTake6は「ゴスペル」または「ソウル」・ヴォーカルグループの位置づけだが、和音構成として、複雑なテンション・ハーモニーを唄うことができるので、音楽的には「ジャズ」ヴォーカルグループと呼べるのである。

 もともと「ソプラノ(女声)、アルト(女声)、テナー(男声)、バス(男声)」という4声の(男女)混声編成は、あらゆる意味で「クラシカル」だ。

 まず一般的になじみが深いのは、古くはシュープリームスやエモーションズ、新しいところではSWVやデスチャに代表されるような女性3人=3声による「ポップ(ソウル)」・ヴォーカルグループだろう。声部パートはソプラノ1人、アルト2人で構成されている。ダイアナ・ロス(ソプラノ)やビヨンセ(アルト)のような思いっきりスキルフルなソリストを擁すことが主であり、「ソロ」「各々ソロ」「ソロ+バック2人」「3声」と何でも出来て、しかも切り回しやすい、3声ゆえ絶対に重たくもならないし、ヴィジュアル的にも固まってよし、散ってよし…と、とにかくポップス・フィールドでは「無敵」の編成。
  男性のみの「ポップ(ソウル)」・ヴォーカルグループも、古今東西、数えあげたらキリがなかろう。なにより中低音の充実により、豪奢かつ華麗なサウンドが約束されているのがとてつもなく大きなアドヴァンテージ。楽器を持たせてバンドとしても成立させられる、ダンスなどコリオグラフィックな魅力、迫力も醸し出せるのも、男性ヴォーカルグループの利点であろう。

 そう、男女混声4人はクラシックの世界では「あたりまえ」のスタンダードな編成なのだが、ことポップスの世界ではわりと「少ない」ケースなのである。クラシカルな(オペラティック)な歌唱法でなければ、男女混声4人編成は生きないのだ(これは極論であり、もちろん数多くの例外はあるので誤解なきように)。

 おっと、ここまでの文章だと、なんか彼等に対して少しネガティヴな印象で僕が語っているようだが、どっこい、この作品は本当に良くできている。あまたのジャンルにおける膨大な数のヴォーカルグループにおいて、70〜80年代を代表する1枚であることは間違いない。

 まず選曲の勝利。1曲目の“Birdland”は今となっては、あまりに妥当すぎる選曲に写るかもしれないが、このアルバムが発表された79年当時は未だウェザーリポートによるセンセーショナルなオリジナル発表時から、さほど時間がたっていない。発表時からすで「名曲の殿堂入り」を果たしてたかのような、こういう曲のカヴァーは「アーティスト、アレンジ、タイミング」すべてが非常に難しく、下手にカヴァーしようものなら、そのアーティスト、プロデューサーの評価を一気に落とすことにもなりかねない。
  しかし、なんと彼等マンハッタン・トランスファーは「ヴォカリーズ」した。それによりアレンジも「ほぼ原曲どおり」…これほど完璧な変化球があろうか(笑)初球(アルバム1曲目)からして、見事に落ちるフォークボール!みたいなシチュエーションだ。世に星の数ほど“Birdland”のカヴァーはあれど、これほど世界中に「完璧にヤラれたな」…と感じさせたカヴァーはいまだかつて無い。ヴォカリーズで原曲をなぞるというアイデア時点で、すでにグラミーは「貰ったも同然」だったのではないか……(もちろん実際受賞した)。

 そしてアレンジの勝利。(アナログ盤として)B面のトップが、これまた衝撃的な“Twilight Zone/Twilight Tone”! これも今聴くと、若干ユルめのリズムに聴こえるが当時としては70〜80年代のテクノ(ロジック)なリズムを先取りした、当時としては超カッティング・エッジなリズム・パターン、テクスチャー、サウンドだったのだ。この曲、このコンセプト、そしてヴジュアル(ファッション)、それらすべてが彼等のヴォーカル・パフォーマンスと同等に「溌剌として」いて、素晴らしく効果的。そう、このアルバムを「コンセプト・アルバム化」した最大の功労者でもあるプロデューサーのジェイ・グレイドンの面目躍如である。
  そのジェイによるこの曲の間奏のギターソロは、まさしく革命的、ヒストリカルな名演だ。大げさではなくクラシック、ロック、ジャズ、ブルーズなど、あらゆるレジェンドたちによる「歴史に残るギター・ソロ100選」があったとしたら、間違いなく上位にエントリーされる歴史的な名演だということだ。マイケル・センベロのメガ・ヒットなんかは、このジェイのソロがなければ生まれ得なかったのではないだろうか…それほどまでに後の世界中のギタリスト、およびアレンジャー、プロデューサーたちに絶大なる影響を与えたのが、このジェイのパフォーマンスだ。

 いまでも世界各地までにおよび活躍しているマンハッタン・トランスファーをみていると、こういうポップ(ジャズ)・ヴォーカルグループこそ、いちばん息ながく活動できるのかな…と、先に書いた「無敵」のポップ(ソウル)・ヴォーカルグループのフォーミュラー(公式)を早くも前言撤回したくなってくる(笑)
そのあたりのテイキット・イージー(Take It Easy)感、すなわち「小粋」なところもまた、彼等の大きな魅力なのだろう。
  スムース・ジャズ的な名トラックス“Brasil”や、彼等がスタンダードを唄った中ではヴォーカル・アレンジも含め、名演中の名演である“A Nightingale Sang In Berkeley Square”なんていう他の彼等の楽曲が聴きたくなってきた……。

鷺巣詩郎(さぎすしろう)

お知らせ
ワールドワイドに活躍中の作曲家、音楽プロデューサーの鷺巣詩郎のブログ「SHIRO'S SONGBOOK ひろば」がついにOPEN!
プロフィール
鷺巣 詩郎
25年以上もの長きにわたり第一線で活躍し続け、驚異的なキャリアを誇る、作曲家、編曲家、音楽プロデューサー。
80年代初頭のアイドル歌謡曲時代から、インストゥルメンタル・アーティスト、近年のシンガー・アーティストに至るまで広範囲にわたり何百何千もの楽曲、アーティストを手掛け、くわえて、映画、TVなど、あらゆる映像音楽(サウンド・トラック)分野でも活躍、あわせて膨大な数の大ヒットを、絶えず世に送り出している。
90年代よりヨーロッパでも活動、パリでのクラブ経営、英仏アーティストの楽曲も手掛ける。また日本人として初めて韓国映画の音楽監督もつとめた。
近年の代表作はMISIA、平井堅、CHEMISTRY、エリーシャ・ラヴァーン、SMAP、「新世紀エヴァンゲリオン」「MUSA」「CASSHERN」など。 自身のアーティスト活動も”SHIRO'S SONGBOOK”シリーズとして継続中、最新CDが2005年8月avexより発売される。
R&B専門誌への長期連載、USENサイトへのコラム、ブログなどの執筆活動も盛ん。現在ロンドン、パリ、東京の3ヶ所に在住。
USENのCS衛星放送SOUND PLANETにて鷺巣詩郎選曲による音楽プログラム『SHIRO'S SONGBOOK』(BF-53チャンネル)が 絶賛放送中! こちらもお聴き逃しなく!





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