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総合TOP > お役立ちインデックス > OnGenアーカイブス > (隔)週刊 鷺巣詩郎 > 2006/11/01 ジョニ・ミッチェル

(隔)週刊 鷺巣詩郎  鷺巣詩郎の選ぶおすすめの1枚
ジョニ・ミッチェル 『Mingus』
ジョニ・ミッチェル 『Mingus』
ジャズ・ジャイアントにリスペクトを表した作品中、最大の傑作の一枚

 チャールス・ミンガスの生演奏を僕は10代のときに何度となく観ている。良いジャズは「大箱では観ない」で「ライヴ・ハウスで聴け」とよく言われる。残念ながら僕がミンガスを観たのはいずれもコンサート・ホールだったが、どっこいミンガスを招聘したプロモーター家族と知り合いだったので、なんといつも最前列でしかも真ん中よりチョイ左、つまりミンガスに一番近い席で、彼の運指や呼吸までもハッキリ読み取れる場所から「聴く」ことが出来たのをよく覚えている。
  自分がかなり優位な立場だったことは当時もじゅうぶん意識はしてはいたが、、しかし「ミンガスのようなジャズ・ジャイアントの生(ライヴ)を体験する」ということについては正直ありがた味さえ全く感じることはなかった。今となっては信じられないが、ベイシーやマイルスやミンガスらが「生きていて」「活躍している」ことなど本当に至極あたりまえの時代だったのだ。いやはや・・・恥ずかしくもあり、懐かしくもあり、悲しくもある、なんとも複雑な心境だ。まあ、同時期に生きられた「幸せ」のほうこそ誇るべきなのかもしれないが。

 そして、このジョニ・ミッチェルの名盤『Mingus』というアルバムの生みの親である不世出の天才ミュージシャン、20世紀を代表するスーパー・ベーシストのジャコ・パストリアスも、すでにこの世にいない。

 このアルバムは、ジョニ・ミッチェルのリーダー作であって同時に「ジャコのリーダー作でもある」と表現したとしても、決して誰も異論をはさむことはないだろう。それほどのジャコの介入ぶり・・・それもそのはず、この頃のふたりは当然のことながら夫婦同然であった。このこともまた有名なハナシだ。
 Video時代からDVD時代になろうとも、われわれミュージシャンにとっては「一家に一枚」の常用薬ライヴ映像として名高い『シャドウズ・アンド・ライト』・・・いかに最初はジャコのベース、パット・メセニーのギター、マイケル・ブレッカーのテナーなどのパフォーマンスのほうが目当てで観るのであっても、ジャコ&ジョニのカップルのあまりの「マジ」っぷりに、だんだん「ジャコパス監督、演出による」ジョニ・ミッチェルの音楽そのものに、どんどんハマっていく自分にまずは驚き、次にそれがどんどん快感になってくるのにも気づくのである。

 そう、1970年にあの伝説のワイト島ロック・フェスティティヴァルに出演した当時から、もう一環してずっとジョニ・ミッチェルというのは「良い意味で」相当にアクの強いアーティストである。80年代に登場したケイト・ブッシュや90年代に登場したビョークも、たしかにアクは強いが、なんのなんの貫禄という点では、まだまだジョニの足下にも及ばないのである。
 現在ジョニ、ケイト、ビョークに共通しているのは、そのアーティストと仕事をすることが「特別」な意義をもつほど「別格」な地位を築いていることであろう。ここが同じビッグ・ネームでもマドンナ、ホイットニー、セリーヌなどとは大きく違うところだ。いわば「クラッシー」なのである。僕の15年来の仕事仲間であり、友人でもあるストリングス・オーケストラのリーダーGavyn WRIGHTはわれわれの業界ではすでに世界的、マッカートニーをはじめほとんどのUKのビッグネーム達と共演し信頼されているし、USのビッグネームからも同様、しかもハリウッドの超大作の演奏までつとめる(これがいかにスゴいことであるかは説明不可能)スタジオ・オーケストラの最王手である。そのGavynをして「Shiro!、こないだなんとジョニ・ミッチェルのレコーディングにオーケストラで参加したんだぜ!!」と興奮するほどのアーティストなのである、ジョニは。

 『Mingus』ではジャコが好き勝手をやっているようで、ジャコばかりが目立っているようでいて、じつはそうでもない。ジャコとやっていたこの時代、アーティストとしてのステータスを上げたのは圧倒的にジョニのほう。ロックでもフォークでもパンクでもニューウェーヴでもない。そして重要なのはチャールス・ミンガスを素材にして「ジャズ」を演じながらも、決して「メイン・ストリームのジャズ・ヴォーカル」スタイルにはなっていない点が、このアルバムの一番スゴいところだ。
 このアルバムの音楽的に優れた部分はかぞえきれぬほど沢山あり、挙げていったらキリがないが、中でも圧倒的なのはジャコが自分のベース・ラインの手癖をそのままリハーモナイズしてビッグ・バンドに吹かせているところだ。あれだけ「革新的」なベーシストでありながらも、面白いことにこのジャコの手癖というのは、(チャーリー・)パーカー(ディジー・)ガレスピー、そしてミンガスのような絶対的「ビバップ時代」のフレージングなのである。そしてアヴァンギャルド極まりないのは、それらのフレーズを場所によっては「倍速で」表現している点もまた、いかにもジャコらしいのである。
 この『Mingus』におけるビッグ・バンドのプロダクションと独自の「ジャコ手法」「ジャコ・スタイル」が、のちにジャコが発表するやはり20世紀きっての名盤中の名盤『Words Of Mouth』に直結し、花開くことは明白である。

 同じく70〜80年代に時代を牽引したベースの名手にスタンリー・クラークという飛びぬけて優れたミュージシャンがいるが、スタンリー・クラークもまた一時期ディーディー・ブリッジウォーターという素晴らしいシンガーと夫婦同然になり彼女に『Just Family』という傑作アルバムをもたらしているように、シンガーにとっての伴侶は「あらゆる意味で」非常に重要なのである。

 やはり80年代にドナルド・フェイゲンジョー・ジャクソンらが制作した「セロニアス・モンクへのトリビュート盤」とともに、この『Mingus』はジャズ・ジャイアントにリスペクトを表した作品中、最大の傑作の一枚である。

鷺巣詩郎(さぎすしろう)

お知らせ
ワールドワイドに活躍中の作曲家、音楽プロデューサーの鷺巣詩郎のブログ「SHIRO'S SONGBOOK ひろば」がついにOPEN!
プロフィール
鷺巣 詩郎
25年以上もの長きにわたり第一線で活躍し続け、驚異的なキャリアを誇る、作曲家、編曲家、音楽プロデューサー。
80年代初頭のアイドル歌謡曲時代から、インストゥルメンタル・アーティスト、近年のシンガー・アーティストに至るまで広範囲にわたり何百何千もの楽曲、アーティストを手掛け、くわえて、映画、TVなど、あらゆる映像音楽(サウンド・トラック)分野でも活躍、あわせて膨大な数の大ヒットを、絶えず世に送り出している。
90年代よりヨーロッパでも活動、パリでのクラブ経営、英仏アーティストの楽曲も手掛ける。また日本人として初めて韓国映画の音楽監督もつとめた。
近年の代表作はMISIA、平井堅、CHEMISTRY、エリーシャ・ラヴァーン、SMAP、「新世紀エヴァンゲリオン」「MUSA」「CASSHERN」など。 自身のアーティスト活動も”SHIRO'S SONGBOOK”シリーズとして継続中、最新CDが2005年8月avexより発売される。
R&B専門誌への長期連載、USENサイトへのコラム、ブログなどの執筆活動も盛ん。現在ロンドン、パリ、東京の3ヶ所に在住。
USENのCS衛星放送SOUND PLANETにて鷺巣詩郎選曲による音楽プログラム『SHIRO'S SONGBOOK』(BF-53チャンネル)が 絶賛放送中! こちらもお聴き逃しなく!





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