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総合TOP > お役立ちインデックス > OnGenアーカイブス > (隔)週刊 鷺巣詩郎 > 2006/07/19 MISIA

(隔)週刊 鷺巣詩郎  鷺巣詩郎の選ぶおすすめの1枚
MISIA『Mars & Roses』
MISIA『Mars & Roses』
デビュー5年にして「円熟味」を醸し出すことに成功した佳作

自分がかかわったアーティスト作品のことを書くのは筒美京平さんのアルバムに次いで2度目だが、MISIAの場合、京平さんとは全然ちがう。作家同士ではないから距離がちがうのは当たりまえとして、とくに彼女には、デビュー前からずっと深くかかわったので、まぁいわば彼女のアルバムのことを書くのは自分のことを書くことに等しい、と言っても過言ではない。しかも、このアルバムは2004年に発売されたから、やたら最近のことで記憶もナマナマしい。

 制作に入ったのは2003年のロンドン。
 もちろんMISIAが自身のレコーディングでロンドンに来たのは初めてではない。彼女のロンドン初セッションは1998年デビューの年の9月。僕の曲「The Glory Day」のレコーディングだった。リズムから、オーケストラから、延べ150人(4〜50人を何度か重ねて)のクワイア、つまり都合200人以上という一大セッションをこなし、ミックス〜リミックスにまで突入、さらには、それらのセッションすべてのスチールとVideo撮影を行うという、なんとも濃密きわまりない1週間だったのだが、彼女だけは3〜4日間だけの滞在で、ミックス前までの工程をこなす、嵐のような超過密スケジュールだった。そして2001年もロンドンに来られるはずだったMISIAだが、離陸前夜に911事件があり、残念ながら見送られたこともあり、彼女にとって、この2003年『Mars & Roses』セッションのためのロンドン再訪は、念願でもあった。撮影も取材もなく、約2週間ものあいだゆったりと音楽制作だけに没頭できたのは、すごく有意義だったはずだ。それが仕上がりにも良く反映されたと思う。

 彼女には、まず「たくさんの仲間がいる」。
 以下、僕が『Mars & Roses』セッションについてMISIAのファンクラブ会報に宛てた文章をご覧いただきたい。


 参加人数が延べ200人を超えた(!)前代未聞の1998年「The Glory Day」セッション以来MISIAがロンドンを訪れるのは4年半ぶりだったのに、まるで先週も一緒だったかのようにロンドンのミュージシャン、スタッフと過ごす(笑)彼女がとても印象的でした。じつはこの4年半の間も、MISIA不在とはいえ絶えずMISIAセッションがここロンドンで行われ、逆にロンドンのミュージシャンたちもMISIAの仕事で何度となく東京を訪れているからです。
 そんな微笑ましい光景が僕には「たのもしく」も映りました。
 このようにミュージシャンとの深い交流という、何物にも代え難い素晴らしい財産を、東京と同じくロンドンやニューヨークにまで持つ、アーティストとして大きく成長したMISIAの姿が「まぶしい」……そんな充実感あふれるレコーディングでしたね。

 音楽的には「とてつもなく厳しく」、人間的には「そこはかとなく優しく」つきあえる仲間同士。
 だから、とても温かいアットホームな雰囲気に包まれたレコーディングでもありました。

 2週間という期間も彼女は落ち着けてよかったでしょう。仲間のクワイアが唄いまくる日曜日の教会に行き感動したりとか、ポッシュ(トレンド)・スポットにもそれなりに出没したりとか、硬さ柔らかさのバランスもとても良かったです。
 
 そう、彼女はミュージシャン・シップという素晴らしい財産を持ち続けて、活動している。だから、このアルバムのようにロンドンではミュージシャンやクワイアたちとも、東京では渡辺香津美さん等の大先輩とも、ニューヨークでは大御所キース・クラウチとも、さらにエリカ・バドゥとも、すんなり共演できてしまうのである。それは、ひとえに「ひと声で、その音楽性を知らしめることができる」彼女の大きな、大きな武器である歌唱力あってのこと。つまり、そのミュージシャン・シップは、だれかにあてがわれたものではなく、彼女自身が実力により自分で勝ち得たもの、というわけです。
 もう、洋の東西、老若男女を問わず、素晴らしいミュージシャンやエンジニア同士というものは、最初の数秒、もっと極端に言えば、最初の一音で、互いにわかり合って、みとめ合って、尊敬しあって、しまえるものです。誇張なしに、そこには言葉など必要ありません。MISIAはその「ひと声」を、デビュー当時から、いや厳密に言えばデビュー前から、持っていたから、ミュージシャン・シップという財産を得るのが、誰よりも本当に素早かったと思う。

 この『Mars & Roses』は、そうした、ちょっとやそっとでは得がたい音楽的財産を、早くから自分の力でつかみ取った彼女が、デビュー5年にして「円熟味」を醸し出すことに初めて成功した佳作である。


 最後に、やはり別な機会に僕が彼女に宛てた文章で終わりたい。

 MISIAは、そのすべてのパフォーマンスの中に、均整のとれた「やさしさ」と「きびしさ」両方がバランスよく存在する、素晴らしいシンガー・アーティストです。
 それは、MISIAがひとりの人間としても、外側=まわりに発散する「やさしさに満ちた愛情」と、内側=自らに課す「きびしく高い志(アンビシャス)」両方を、いつも両立させ、高水準で保ちたいと、常に努力している証(あか)しでもあります。


 鷺巣詩郎(さぎすしろう)

お知らせ
ワールドワイドに活躍中の作曲家、音楽プロデューサーの鷺巣詩郎のブログ「SHIRO'S SONGBOOK ひろば」がついにOPEN!
プロフィール
鷺巣 詩郎
25年以上もの長きにわたり第一線で活躍し続け、驚異的なキャリアを誇る、作曲家、編曲家、音楽プロデューサー。
80年代初頭のアイドル歌謡曲時代から、インストゥルメンタル・アーティスト、近年のシンガー・アーティストに至るまで広範囲にわたり何百何千もの楽曲、アーティストを手掛け、くわえて、映画、TVなど、あらゆる映像音楽(サウンド・トラック)分野でも活躍、あわせて膨大な数の大ヒットを、絶えず世に送り出している。
90年代よりヨーロッパでも活動、パリでのクラブ経営、英仏アーティストの楽曲も手掛ける。また日本人として初めて韓国映画の音楽監督もつとめた。
近年の代表作はMISIA、平井堅、CHEMISTRY、エリーシャ・ラヴァーン、SMAP、「新世紀エヴァンゲリオン」「MUSA」「CASSHERN」など。 自身のアーティスト活動も”SHIRO'S SONGBOOK”シリーズとして継続中、最新CDが2005年8月avexより発売される。
R&B専門誌への長期連載、USENサイトへのコラム、ブログなどの執筆活動も盛ん。現在ロンドン、パリ、東京の3ヶ所に在住。
USENのCS衛星放送SOUND PLANETにて鷺巣詩郎選曲による音楽プログラム『SHIRO'S SONGBOOK』(BF-53チャンネル)が 絶賛放送中! こちらもお聴き逃しなく!





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