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総合TOP > お役立ちインデックス > OnGenアーカイブス > (隔)週刊 鷺巣詩郎 > 2006/05/17 クインシー・ジョーンズ

(隔)週刊 鷺巣詩郎  鷺巣詩郎の選ぶおすすめの1枚
クインシー・ジョーンズ『ボディ・ヒート』
Quincy Jones 『Body Heat 』
TRACK LIST
Quincy Jones
『Body Heat 』
1974 Release
ダウンロード価格
アルバム \1,350(税込)
トラック 各\150(税込)
アーティスト詳細へ
岐路に立ったファンク傑作、しかし、その一言では済まない裏側の美しさとは

これぞ御大クインシーの大「ウラ名盤」。マイケル・ジャクソンの“Off The Wall”('79)から“Thriller”('82)への金字塔記録への静かなる第一歩というところか。
 もちろん直接的には、クインシーが手がけ、マイケル自身も参加したサントラ盤の“Wizz”('78)や、クインシー名義の“The Dude”('80)などが、“Off The Wall”と“Thriller”とのサウンド的にも大きく合致する。しかし元来ジャズ・トランペッター〜ビッグバンドを表現媒体とするアレンジャー・パフォーマーであったクインシーが、どうしてソウルやR&B、もっと極端に言えば「キング・オブ・ポップ」のマイケルを具現化(プロデュース)できたか? ポップス界における大御所プロデューサーにまで登りつめるには、いかなる過程が重要だったか? という疑問を解消するためにも、さらにクインシーの足跡を遡っていく必要がある。

 まず、クインシーがA&Mレーベルにて“Walking in Space”('69)から始めた重要な試み、それは「コンテンポラリーな大編成JAZZ」、そして「ゲスト・スターたちをちりばめて、たばねるプロダクション」であった。そして、その方向性は保ちつつ次にクインシーが取り組んだのが“You've Got It Bad Girl”('73)から始まる「もっとエッセンシャルな黒人音楽プロダクション」、そして「黒人音楽の快楽原則そのものを押し出す」ことである。そう、“You've Got It Bad Girl”が『目覚め』ならば、今後そういうサウンドに全面的にシフトするぞ、という『宣言』・・・それが、この“Body Heart”というアルバムではなかろうか。

 そこでこのアルバムの大きな鍵となったのがリズム・ギターとヴォーカル。もちろん、そのどちらもそれ以前のクインシーのアルバムでも聴けたが、“Body Heart”でクインシーが強調したのは「反復性」。前作“You've Got It Bad Girl”で出会ったギタリストのワーワー・ワトソンというギタリストの才能と、彼が奏でるギター・リフの重要性を痛感したクインシーは、“Body Heart”でワーワーのギターを全面的に鳴らしている。60年代後半から70年代にかけてのロック全盛期とは、言いかえればロックギター・リフの黄金期でもある。あまた名ロック・ギタリストたちが凝らしたリフが、そのままコーラス(サビ)となってヒット曲が成立した時代である。そんな渦中にあって黒人音楽プロデューサーのクインシーがどんな戦略を持とうとしたか・・・まぁ、それは“Smackwater Jack”('71)というこれまた名盤ながら、そのラストの‘Guitar Blues Odyssey: From Roots to Fruits’という実験的な曲というかサンプル集からも、うかがい知ることができるのだが・・・つまりギターの「キラー・リフ」は元来黒人音楽の快楽だから、もっともっと大切にすべき、ということ。10年後クインシーは“Thriller”にて、ロックギター・リフ(‘Beat It!’)まで取り込んでしまうのだが、“Body Heart”におけるワーワーのギターが如実にあらわしているのは、そうしたクインシーのギター・リフへの傾倒ではなかろうか。結果‘Beat It!’の商業的な大成功もあるのだ。やはり70年代の同時期にずっとワーワーと共にギター・リフを重要視したハービー・ハンコックと共に、このあたりはサンプリング〜ブレイク・ビーツ的な発想の元祖とも言える。

 それまでもヴォーカリストはフィーチャーされていたが、「フル・コーラス」うたい切ったり、バッキング・ヴォーカルが曲の根幹を成すようになったのも、やはりこの“Body Heart”から。とにかくインストゥルメンタルの割合が激減した。マーヴィン・ゲイの歴史的な傑作“I Want You”が発表されたのが'76年だが、リオン・ウェアが自分のアルバム用に進めていたプロダクションをマーヴィンが買い取ったという逸話をもとに考証するならば、そのプロダクションはすでに73〜'74年に始まっていたと思われる。ならば、この“Body Heart”のラストを飾る‘If I Ever Lose This Heaven’という、やはりリオンの名曲中の名曲のプロダクション時期ともピッタリ重なるであろう。この曲がクインシーとリオン両方に与えた影響は相当大きいはずだし、とくに‘If I Ever〜’と“I Want You”すべての楽曲の参加メンバーはほぼ同じであることを考えても、もちろんマーヴィンも蒙(こうむ)った、そのケミストリー(影響と反応)が黒人音楽界全体に果たした歴史的価値も相当なものだろう。

 最後にクインシー・ジョーンズ一流の「ゲスト・スターたちをちりばめて、たばねるプロダクション」が顕著なのは、このアルバムのハイライト楽曲でもある‘Everything Must Change’である。偉大なるヴォーカル・チューンだが僕はあえてハービー・ハンコックによるバッキングのトリハダもんの美しさ、そしてフランク・ロソリーノという類(たぐい)まれなるジャズ・ジャイアントによるトロンボーンの完璧なアドリブを、ここに特記しておく。やはりクインシーの“Mellow Madness”('75)収録の、僕が世界で一番美しいと思う名曲‘Bluesette’のトロンボーン・ソロも同じくフランク・ロソリーノであり、この2曲のトロンボーン・アドリブを超えるテイクは未来永劫ありえない!と決めつけてしまいたいほど完璧。チャック・レイニー(ベース)しかり、トゥーツ・シールマンズ(ハーモニカ)しかり・・・クインシーのアルバムは名演の博物館でもある。

鷺巣詩郎(さぎすしろう)

お知らせ
ワールドワイドに活躍中の作曲家、音楽プロデューサーの鷺巣詩郎のブログ「SHIRO'S SONGBOOK ひろば」がついにOPEN!
プロフィール
鷺巣 詩郎
25年以上もの長きにわたり第一線で活躍し続け、驚異的なキャリアを誇る、作曲家、編曲家、音楽プロデューサー。
80年代初頭のアイドル歌謡曲時代から、インストゥルメンタル・アーティスト、近年のシンガー・アーティストに至るまで広範囲にわたり何百何千もの楽曲、アーティストを手掛け、くわえて、映画、TVなど、あらゆる映像音楽(サウンド・トラック)分野でも活躍、あわせて膨大な数の大ヒットを、絶えず世に送り出している。
90年代よりヨーロッパでも活動、パリでのクラブ経営、英仏アーティストの楽曲も手掛ける。また日本人として初めて韓国映画の音楽監督もつとめた。
近年の代表作はMISIA、平井堅、CHEMISTRY、エリーシャ・ラヴァーン、SMAP、「新世紀エヴァンゲリオン」「MUSA」「CASSHERN」など。 自身のアーティスト活動も”SHIRO'S SONGBOOK”シリーズとして継続中、最新CDが2005年8月avexより発売される。
R&B専門誌への長期連載、USENサイトへのコラム、ブログなどの執筆活動も盛ん。現在ロンドン、パリ、東京の3ヶ所に在住。
USENのCS衛星放送SOUND PLANETにて鷺巣詩郎選曲による音楽プログラム『SHIRO'S SONGBOOK』(BF-53チャンネル)が 絶賛放送中! こちらもお聴き逃しなく!





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