総合TOP > リコメンドインデックス > 音楽と人 POWER PUSH!! > 07/12/26 髭(HiGE)
快進撃中の髭ちゃん、会心の一撃!なんて身も蓋もない言葉で恐縮だが、髭というバンドのポテンシャルがこのうえなく高まっていることを雄弁に物語る作品が、このニューアルバム『Chaos in Apple』だ。 ビートルズやローリング・ストーンズというバンドが世に登場した60年代以降、その進化の過程においてどんどん細分化されていったロックという音楽。もはや革新的で真新しいロックミュージックの創造が難しくなってきた90年代に、アメリカではグランジが、イギリスではブリットポップというムーブメントが隆盛を極めた。そのどちらにも共通していたのが、革新と進化を繰り広げていた60年代、70年代のロックを咀嚼し、今を生きる自分たちの視点で鳴らしている、という点であると思う。 そんな90年代のUS/UKロックを、髭のメンバーたちはリアルタイムに吸収してきた。その影響は、初期の音源に顕著であり、インディーズ時代の音源からセレクトされたナンバーで構成されたメジャーデビュー盤『Thank you,Beatles』(まんまなタイトルも、髭ちゃんらしい)を聴いてもらえると、よくわかる。またニルヴァーナのカート・コバーン然としたフロントマン・須藤寿の風貌も相まってか、この頃の彼らの音楽は、ビートルズmeetsグランジなどと評されることも多く、様々なロックレジェンドたちへのオマージュがそこかしこに散りばめられている。それが単なる洋楽をなぞらえたものではなく、日本人である自分たちをきちんと通過させて今の日本で鳴らすべきロックとして提示しているのが、今に繋がる髭ミュージックの魅力のひとつといえよう。 ただ、ツインギターにツインドラムにベース、という変則的な編成。左右にドラムとギター、ど真ん中にベースというステージ上の5人の佇まいにしても、「どうも、髭ちゃんです」なんてMCをするフロントマン・須藤寿のファニーな物言いも、シニカルでシュールな歌詞も含めて、当初は彼らのバランス感覚とセンスの良さが、アイロニカルでもあり挑発的な確信犯的なイメージとして捉えられることも多かったように思う。 メジャー2ndの『I Love Rock n’ Roll』では、サンプリングや打ち込みなど新たなアプローチを取り込み、その後のアルバム『PEANUTS FOREVER』で、サウンドプロデューサーにアイゴンこと曾田茂一を迎え入れ、プリミティブな形で自分たちが気持ちよくなれる音楽の追求をした彼ら。結成以降、精力的に行ってきているライブ活動ともあいまって、じわりじわりと、髭、というバンドの認知が広まった。そして2007年、「ボニー&クライド」、「黒にそめろe.p.」という2枚のマキシシングルを経て届けられた、この『Chaos in Apple』。 ストーンズへのオマージュに他ならない疾走感溢れる「黒にそめろ」で幕を開ける本作。強烈なメッセージソングなどひとつもないが、メロディと言葉が一緒になった瞬間に、その裏に秘められたものに気づかされ思わずニヤリとさせられるナンバーの数々。以前、須藤が「毒のあるディズニーランドみたいな音楽をやりたい」といったようなことを言っていたが、ロックミュージックが持っているファンタジーの部分と、リスナーへのイマジネーションの喚起が、これまで以上にハイレベルかつ髭ちゃんらしい形で作品となっている。「溺れる猿が藁をもつかむ」の〈永久 金輪際 オマエにだけは会いたくない〉というドキリとするようなフレーズも、アッパーなメロディに乗せられていて、思わずコブシをあげ笑顔で〈永久 金輪際 オマエにだけは会いたくなぁぁい〉と大合唱してしまう。毒を盛り込みつつも、実にキャッチーで王道なロックミュージックを髭というバンドが生み出していることに気づかされるのだ。 アルバムタイトルには、〈カオス〉なんて言葉が踊っているが、前作以降、自分たちの音楽が確実に届いているという実感を得たからなのであろう、サウンドも歌詞も外へと開かれ、思いっきりポップに響いている。そしてなによりもロックミュージックの輝きと魔法を信じてやまない5人が生み出す純度の高い音楽は、今後も多くのロックリスナーを興奮させてくれることになるだろう。 今後、髭ちゃんが日本のロックシーンにおいて存在感を増していくバンドになることは間違いない。そう確信させてくれる作品が、ここに完成した。 平林道子
彼らのポテンシャルの高さを雄弁に語る作品
快進撃中の髭ちゃん、会心の一撃!なんて身も蓋もない言葉で恐縮だが、髭というバンドのポテンシャルがこのうえなく高まっていることを雄弁に物語る作品が、このニューアルバム『Chaos in Apple』だ。
ビートルズやローリング・ストーンズというバンドが世に登場した60年代以降、その進化の過程においてどんどん細分化されていったロックという音楽。もはや革新的で真新しいロックミュージックの創造が難しくなってきた90年代に、アメリカではグランジが、イギリスではブリットポップというムーブメントが隆盛を極めた。そのどちらにも共通していたのが、革新と進化を繰り広げていた60年代、70年代のロックを咀嚼し、今を生きる自分たちの視点で鳴らしている、という点であると思う。
そんな90年代のUS/UKロックを、髭のメンバーたちはリアルタイムに吸収してきた。その影響は、初期の音源に顕著であり、インディーズ時代の音源からセレクトされたナンバーで構成されたメジャーデビュー盤『Thank you,Beatles』(まんまなタイトルも、髭ちゃんらしい)を聴いてもらえると、よくわかる。またニルヴァーナのカート・コバーン然としたフロントマン・須藤寿の風貌も相まってか、この頃の彼らの音楽は、ビートルズmeetsグランジなどと評されることも多く、様々なロックレジェンドたちへのオマージュがそこかしこに散りばめられている。それが単なる洋楽をなぞらえたものではなく、日本人である自分たちをきちんと通過させて今の日本で鳴らすべきロックとして提示しているのが、今に繋がる髭ミュージックの魅力のひとつといえよう。
ただ、ツインギターにツインドラムにベース、という変則的な編成。左右にドラムとギター、ど真ん中にベースというステージ上の5人の佇まいにしても、「どうも、髭ちゃんです」なんてMCをするフロントマン・須藤寿のファニーな物言いも、シニカルでシュールな歌詞も含めて、当初は彼らのバランス感覚とセンスの良さが、アイロニカルでもあり挑発的な確信犯的なイメージとして捉えられることも多かったように思う。
メジャー2ndの『I Love Rock n’ Roll』では、サンプリングや打ち込みなど新たなアプローチを取り込み、その後のアルバム『PEANUTS FOREVER』で、サウンドプロデューサーにアイゴンこと曾田茂一を迎え入れ、プリミティブな形で自分たちが気持ちよくなれる音楽の追求をした彼ら。結成以降、精力的に行ってきているライブ活動ともあいまって、じわりじわりと、髭、というバンドの認知が広まった。そして2007年、「ボニー&クライド」、「黒にそめろe.p.」という2枚のマキシシングルを経て届けられた、この『Chaos in Apple』。
ストーンズへのオマージュに他ならない疾走感溢れる「黒にそめろ」で幕を開ける本作。強烈なメッセージソングなどひとつもないが、メロディと言葉が一緒になった瞬間に、その裏に秘められたものに気づかされ思わずニヤリとさせられるナンバーの数々。以前、須藤が「毒のあるディズニーランドみたいな音楽をやりたい」といったようなことを言っていたが、ロックミュージックが持っているファンタジーの部分と、リスナーへのイマジネーションの喚起が、これまで以上にハイレベルかつ髭ちゃんらしい形で作品となっている。「溺れる猿が藁をもつかむ」の〈永久 金輪際 オマエにだけは会いたくない〉というドキリとするようなフレーズも、アッパーなメロディに乗せられていて、思わずコブシをあげ笑顔で〈永久 金輪際 オマエにだけは会いたくなぁぁい〉と大合唱してしまう。毒を盛り込みつつも、実にキャッチーで王道なロックミュージックを髭というバンドが生み出していることに気づかされるのだ。
アルバムタイトルには、〈カオス〉なんて言葉が踊っているが、前作以降、自分たちの音楽が確実に届いているという実感を得たからなのであろう、サウンドも歌詞も外へと開かれ、思いっきりポップに響いている。そしてなによりもロックミュージックの輝きと魔法を信じてやまない5人が生み出す純度の高い音楽は、今後も多くのロックリスナーを興奮させてくれることになるだろう。
今後、髭ちゃんが日本のロックシーンにおいて存在感を増していくバンドになることは間違いない。そう確信させてくれる作品が、ここに完成した。
平林道子