バンドという形式をとりながらもAIRが車谷浩司による「プロジェクト」なのは、彼の中での音楽に対するピュアな思いが元にあるからだ。要はこういうことだ。彼は、人間関係はじめ周囲の喧騒で自分の音楽が歪められることを人一倍怖れているし、嫌悪している。AIRの核となる音楽に対する純粋さは、誰にもけがすことのできない聖域みたいなものであるのだ。なので作品ごとに多様な変化はするものの、彼の音楽は色あせることのない純粋さと誠実さを保っている。いわばシンガー・ソングライター的なアーティストであるとも言える。
そんなAIRがデビュー10年となる昨年、『A Day In The Life』というアルバムを作った。オーガニックでプライベート感の強いこの作品は、車谷がAIRの活動を止め単身オーストラリアへ渡った時の生活を綴った非常にパーソナルなものであり、まさに「シンガー・ソングライター」的な内容である。かつて、強い連帯感を求めるメッセージを乗せたラウド/ミクスチャーという「動」のスタイルと、センシティブな心情をメランコリックなサウンドとメロディで吐露する「静」のスタイルで時代を牽引したスケール感を持ったAIRがいた。しかし、それとは対照的なこの作品を前に、僕は彼の存在を身近に感じられることに喜びを感じながらも、シーンや世間にコミットせず自分の音楽愛のみを追求していくミニマムな活動方針への姿勢を感じ、一抹の寂しさを覚えたのも事実だ。10周年という記念すべき年にもかかわらず。
しかし、10年という区切りを境に彼は2007年、つまり今年からAIRは大いなるモチベーションと野望を感じさせるアルバムとともに再出発する。ニューアルバム『The New Day Rising』。始まりを予感させるタイトルはもちろん、ここには溌剌としたテンションとキャリアに裏打ちされたスケール感がある。冒頭のタイトル同名曲から中盤にさしかかる「Let Me Know,Let You Know」までの息をつかせぬスタートダッシュぶりは、デビュー時の初期衝動に任せたを勢いに似たものを感じさせる。そして特筆すべきは、ワイゼンボーンなるスチール・ギターの導入やアコギでボトルネック奏法を多用するという新たな試みがなされており、本作での車谷のギターは饒舌でやたら弾きまくっていることだ。サウンド的にはラウドでもヘヴィでもないが、そのスタイルやスケールのお行儀の悪さはパンキッシュで痛快きわまる。ファンクネスとロックンロールを融合した独自のギター・ロックとして、彼が新しい世界を獲得した瞬間だ。さらに後半、「Your Song」をはじめメランコリー全開の優しいナンバーは、サイケデリックにディスコチークに、その幅は広がりを見せながらもすべては彼が紡ぐ穏やかなメロディへと収束していく。アグレッションとセンシティビティが渾然一体となった、まさに「動」「静」を併せ持ったAIRがここに復活したのだ。
樋口靖幸
●完全無料パソコンテレビGyaO 3ch音楽にて、雑誌『音楽と人』主催のライブ・イベント『MUSIC & PEOPLE EXTRA!』を9月29日より放送開始!
今回は、椿屋四重奏とムック。まったくの異種格闘技戦に思われるかもしれないが、どちらも日本のロックにこだわり、シーンに染まらず、オリジナルを貫くスタイルは一緒。このガチンコ勝負が生んだ、圧倒的なライブの模様をお届けします。ラストではフロントマンが共演してのアコースティック・セッションも実現!
バンドという形式をとりながらもAIRが車谷浩司による「プロジェクト」なのは、彼の中での音楽に対するピュアな思いが元にあるからだ。要はこういうことだ。彼は、人間関係はじめ周囲の喧騒で自分の音楽が歪められることを人一倍怖れているし、嫌悪している。AIRの核となる音楽に対する純粋さは、誰にもけがすことのできない聖域みたいなものであるのだ。なので作品ごとに多様な変化はするものの、彼の音楽は色あせることのない純粋さと誠実さを保っている。いわばシンガー・ソングライター的なアーティストであるとも言える。
そんなAIRがデビュー10年となる昨年、『A Day In The Life』というアルバムを作った。オーガニックでプライベート感の強いこの作品は、車谷がAIRの活動を止め単身オーストラリアへ渡った時の生活を綴った非常にパーソナルなものであり、まさに「シンガー・ソングライター」的な内容である。かつて、強い連帯感を求めるメッセージを乗せたラウド/ミクスチャーという「動」のスタイルと、センシティブな心情をメランコリックなサウンドとメロディで吐露する「静」のスタイルで時代を牽引したスケール感を持ったAIRがいた。しかし、それとは対照的なこの作品を前に、僕は彼の存在を身近に感じられることに喜びを感じながらも、シーンや世間にコミットせず自分の音楽愛のみを追求していくミニマムな活動方針への姿勢を感じ、一抹の寂しさを覚えたのも事実だ。10周年という記念すべき年にもかかわらず。
しかし、10年という区切りを境に彼は2007年、つまり今年からAIRは大いなるモチベーションと野望を感じさせるアルバムとともに再出発する。ニューアルバム『The New Day Rising』。始まりを予感させるタイトルはもちろん、ここには溌剌としたテンションとキャリアに裏打ちされたスケール感がある。冒頭のタイトル同名曲から中盤にさしかかる「Let Me Know,Let You Know」までの息をつかせぬスタートダッシュぶりは、デビュー時の初期衝動に任せたを勢いに似たものを感じさせる。そして特筆すべきは、ワイゼンボーンなるスチール・ギターの導入やアコギでボトルネック奏法を多用するという新たな試みがなされており、本作での車谷のギターは饒舌でやたら弾きまくっていることだ。サウンド的にはラウドでもヘヴィでもないが、そのスタイルやスケールのお行儀の悪さはパンキッシュで痛快きわまる。ファンクネスとロックンロールを融合した独自のギター・ロックとして、彼が新しい世界を獲得した瞬間だ。さらに後半、「Your Song」をはじめメランコリー全開の優しいナンバーは、サイケデリックにディスコチークに、その幅は広がりを見せながらもすべては彼が紡ぐ穏やかなメロディへと収束していく。アグレッションとセンシティビティが渾然一体となった、まさに「動」「静」を併せ持ったAIRがここに復活したのだ。
樋口靖幸