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総合TOP > リコメンドインデックス > インナミリコメン > 2008/04/23 シガー・ロス


インナミレコメン 印南敦史の選ぶオススメの1枚
シガー・ロス 『HVARF/HEIM〜消えた都』
シガー・ロス  『HVARF/HEIM〜消えた都』

TRACK LIST
 2007 Release
ダウンロード価格
アルバム¥1,500(税込)
トラック 各\210(税込)

 
 
 
  

アーティスト詳細へ
人間の繊細な部分を突きまくる、繊細で誠実でひたすら美しい音楽。
   

シガー・ロスの音楽を聴くと、おかしな感覚に襲われる。
  ひとりぼっちになってどこかの山の上に小さい家を建てて住み、彼らの音楽をかけ、孤独感に打ちのめされながらヒィヒィ泣いてみたい、みたいな。

 バカでしょ。
 変態ですね。

 実際の僕は家族がいないとだめで、妻が子供たちを連れて実家に遊び帰っただけで落ち着きがなくなるような情けない男だ。だから、そんなことは絶対にできっこない。でもシガー・ロスって、なんだかそうやって妄想をふくらませてくれるのだ。で、それが(ある意味で自虐的な)たまらない快感になる。寡黙なくせして、人間のいちばん繊細な部分をずんずん突いてくるというか。

 1994年に結成され、97年に『Von』(希望)でデビューしたバンドだ。区分けをするなら、ポスト・ロックと呼ばれる領域に収まる。でも彼らの音楽を語るうえで、カテゴリーのたぐいはまったく意味を持たない。なぜならシガー・ロスの音楽は“シガー・ロスの音楽”であり、それ以上でも、それ以下でもないからだ。

 だから、絶対的に信頼できる。

 それにしても、いつも思うこと。
 こんなに純粋で、こんなに切なく、こんなに心に残る音楽を作れる人たちが世のなかにいること自体が僕には信じられない。だから少なくとも僕にとってシガー・ロスは唯一無二の存在であり、彼らの音楽から隔離されたまま残りの人生を生きていく自信もない。

 出身地であるアイスランドの大地を思わせる(行ったことはないけどね)広大さも、吹けば飛ぶようなファルセット・ボーカルも、ヴァイオリンの弓でギターを弾くボウリング奏法がもたらす不思議な効果も、対照的に全体の空気を突き破るような勢いを持った力強いギター・フレーズも、シガー・ロスの音楽を形成するすべてが僕の糧だ。

 決して大げさな表現ではない。透明感を音で描いたような彼らの音楽に僕は救われるし、彼らの音楽と出会うために生きてきたような気持ちにすらなる。その表現は押しつけがましさやステレオタイプな強さとは対極にあるものだし、ときに頼りなげですらある。けれど、だからこそ、生きるために必要な、静かな力のようなものを意識させてくれる。

 「無人島レコード」みたいな考え方があるけれど、もしも一枚しか無人島に持っていくことを許されないのだとしたら、ロバート・ワイアットの『ナシング・キャン・ストップ・アス』か、それともシガー・ロスのいずれかのCDを持っていくべきかということで僕は大いに悩む可能性がある。

 ちなみに“シガー・ロスのいずれかのCD”と書いたことには理由があって、ぶっちゃけどれでも満足できるのだ。彼らの作風には明らかな一貫性があり(早い話がワンパターンでもあり)、だからどれを聴いても、懐かしい家に戻ってきたような安心感を意識することができるから。

 そう、彼らの音楽は彼らの家だ。
 そこには灯りがともっている。

 昨年末にリリースされた『HVARF/HEIM〜消えた都』は、電気楽器を使って新たにレコーディングされた『HVARF』と、アコースティック・セットでライヴ収録された『HEIM』で構成される作品。未発表曲は「サルカ」「ヒリョーマリンド」「イ・ギャイル」の3曲だけで、残りは過去のアルバムに収録されていた曲だ。

 具体的にいうとスタジオ・テイクでもライブでも聴ける「ヴォン」、それから「ハフソール」は、1997年にリリースされたデビュー・アルバム『ヴォン』収録曲。ライブの方の「スタルアウルヴル」「アウギャイティス・ビリユン」は1999年作『gtis Byrjun』からで、「ヘイサウタン」は2005年の『tak...』のラストにはいっていた曲だ。という具合だから、ベスト・アルバム的な聴き方もできて入門編に最適。どのアルバムも間違いなくオススメだけど、ここから入ってみるという手もある。

 とはいってもよくあるベスト盤のような寄せ集めではなく、やはり彼らならではの一貫性はここにもはっきり反映されている。ストーリーめいたものを意識させるのだ。だから曲ごとにではなく、ぜひ全曲を通して聴いていただきたいと願う。そうすることを強制したいぐらいの気持ちだ。なぜって彼らの世界観は、一曲や二曲で完結できるほど薄っぺらいものではないからだ。アルバムがはじまってから終わるまでの数十分を共有することによって、彼らが“存在することによって表現しようとしているもの”(それはニュアンスかもしれないが)が伝わってくるだろう。

 それに、初めて聴いた人でもきっと、最初に数曲を聴けば「このまま聴き続けたい」という気持ちになるはずだ。そしてすべてを聴き終えたときには、ずっと持っておきたいと感じるはずだ。なぜって冒頭でも触れたとおり、シガー・ロスの音楽は誰しもが持つ繊細な感情を心地よく刺激してくれるから。

 初めて聴く人は、僕のこの意見を信じてほしい。絶対に後悔しないと約束する。音楽が心象風景を言い表すものだとしたら、シガー・ロスが本当の音楽だからだ。

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  1962年東京出身。雑誌、ラジオなどで活躍中のエッセイスト/フリーライター/編集者/DJ。音楽を中心としつつ、食からバカネタまでに広く精通。すべてのカテゴリーにおいてマニアックに暴走することなく、独自の語り口でわかりやすく伝えることを信条としている。最新刊は『音楽系で行こう!』(ロコモーション・パブリッシング)。その他、『 あの日、ディスコが教えてくれた多くのこと』『ブラックミュージックこの一枚』(知恵の森文庫)など著作多数。
『TITLe』(文芸春秋)『ラピタ』(小学館)『BRIO』(光文社)『モノ・マガジン』(ワールド・フォト・プレス)『月刊PLAYBOY』(集英社)など、多くの雑誌に執筆。TBSラジオ『ストリーム』出演中。
脱力系日記が人気のウェブサイトは www.innami-atsushi.com/

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