総合TOP > お役立ちインデックス > OnGenアーカイブス > インナミリコメン > 2007/10/10 やなせなな
感じる前に、「これは、いいのか?(あるいは、いいと思わなくちゃ)」みたいなことを考えさせる音楽が、いつの間にか増えた気がする。 “悪い音楽”が蔓延しているということではないですよ。その証拠に、たいていの音楽は繰り返して聴けば好きになれたりするものだ。けど、それ以上食い込んでくるものが少なくなったというか。なんでもかんでも時代のせいにする気はないけど、行きすぎた時代の必然としてそういう傾向はある気がするわけです。 でも本当にいい音楽って、派手さのようなものとは無縁だったとしても、むしろ地味だったとしてもしっかりと心に貼りついてくれるんですよね。やなせななさんの新作『遠い約束』を聴いた7月以来、ずっとそのことを考えている。 おおたか静流さんとか村上ゆきさんのように、時流に流されることなく自分のスタンスで淡々と歩む人の音楽に惹かれる傾向が僕にはあるので、その影響だといえなくもないかもしれない。 だけどそれでも自信を持っていえるのは、心のひだにすっと入り込むような、それで気持ちを楽にさせてくれるような効果がこの人の音楽にはあるということだ。 この3ヶ月ほど、きついことがあったりしたときに何度も、このアルバムに助けられた。という表現は大げさかもしれないけど、少なくとも気持ちを落ち着かせることはできた。 だから僕にとって、これは大切な作品。 あまり知られていない人かもしれない。事実、静寂を基盤とした音楽性と同じように、本人の立ちまわり方も決して派手なものではない。というより、はっきり地味。 なにせ、ふだんは実家である浄土真宗のお寺で尼僧として働いているというのだから。学生のころ能に感化されて学び、舞台に立ったこともあるらしい。そして同じようなスタンスで、シンガー・ソングライターとしても活動している。おそらくこの人のなかでは、浄土真宗も能もシンガー・ソングライターとしてのスタンスも、同一線上にあるんじゃないかと思う。 とはいっても当然ながら、宗教的だったり不必要に日本の伝統を打ち出しているわけではないですぜ。そんなものだったら絶対におすすめしません。 そうではなく、ひとりの生活者の視点から“ふつうの日常”を表現しているだけなのだ。だから響く。「シチュー」とか「さよなら夏休み」とか、タイトルからもそういったニュアンスはなんとなくわかるんじゃないかな。 たとえば彼女のあり方を端的に言い表しているのが、アルバムの最後の方にひっそりと収録されている「青空ピアノ」という曲。ここでは大切な人を失った男性の立場に立っているのだけれど、情景描写が淡々と進んで押しつけがましくないので、よけい心に残るのだ。 ピアノを軸として、必要に応じてギターやパーカッションが加わるミニマルな構成も、この人の表現にぴったり。寒くなっていくこれからの季節にも似合う、長く聴ける作品じゃないかな。疲れた夜とか、なにもしないでぼーっとしていたい休日とか、そういうシチュエーションにも最適なのではないでしょうか。 淡々としているからこそ、強烈なインパクトを投げかけてくる。その証拠に、聴き流していたとしても、いくつかの言葉が強烈に飛び込んでくる瞬間がある。つまり、確実に“なにか”を感じさせてくれる、地味ながらもすばらしい音楽。自信を持っておすすめできます。