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総合TOP > お役立ちインデックス > OnGenアーカイブス > インナミリコメン > 2007/08/08 マーカス・ミラー


インナミレコメン 印南敦史の選ぶオススメの1枚
マーカス・ミラー 『フリー』
マーカス・ミラー   『フリー』

TRACK LIST
 2007 Release
ダウンロード価格
アルバム¥1,500(税込)
トラック各¥150(税込)

 
 
 
   

アーティスト詳細へ
コリーヌ・ベイリー・レイなど多才なゲストを招いた、間口の広い傑作。
   

 音楽にしても「これ聴かなきゃだめだよ!」みたいに決めつける人が多かった。屈折してたし、なにが「だめ」なのか全然理解できなかったから素直に聞けなかったけど、振り返れば、彼らから学んだことは多いかな。

 C大生のNさんは、とりわけアクの強い人だった。
「おっまえ偉そうに、なに言ってけつかる?」
 ちゃんちゃんこを羽織ったNさんはこたつの向こう側から、よくそんな口調で僕をからかった。ある種の愛情表現だったのかもしれないけど、「けつかる」なんて言葉を使うセンスとか、どうにも耐えられなかった。若かったのだ。

 「おまえね、ジャコパス聴かにゃ。なんつったってリード・ベース弾く男じゃけんね」
 千葉出身のはずなのに、なぜ「じゃけんね」なのか意味不明。生理的に受けつけないそういう感覚が、僕とジャコ・パストリアスとの間に距離をつくったりもした。

 やがて疎遠になったのは、僕が彼を敬遠したからだったのか、それとも成り行きだったのか。どうあれ、いつの間にか思い出すこともなくなっていた。

 ばったり再会したのは80年代前半。ちゃんちゃんこはスーツになっていて、ギラギラしていた顔はげっそりとして見えた。
 「いやー疲れた…」
 連れていかれた喫茶店で、Nさんは僕に初めて愚痴をいった。
 「おまえもがんばれよぉ。社会に出ると大変だからよぅ」
 「そんなにきついんですか」
 「まあ…な。時間ないし、夜には帰って寝るだけだし。いまはマーカス・ミラーのレコードだけが救いだな」
 「マーカス・ミラー?」
 「おめー知らないの? あいかわらず、どんくさいのう。最近アルバム出したすげえベーシストでさ、ジャコパスを敬愛してる人なんだよ。ああいうのを聴かにゃあ、おめー」
 変わってねーやと思ったが、そこで僕は、マーカス・ミラーのデビュー・アルバムに興味を抱いた。高校時代なら、また抵抗したかもしれないけれど。

 16歳でセッション・ベーシストとして活動をはじめたマーカスは、ギター、ドラムス、キーボード、ソングライティング、プロデュースまでこなせる多才な男。現代ジャズ・フュージョン・シーンを代表する重要人物である。手がけた仕事も数知れないが、やはり決め手は超絶スラップ・ベースだ。

 そんな彼が最近、2年ぶりのアルバム『フリー』を出した。様々なゲストを招いた作品で、ベロベロと巧みに操られるベース・サウンドはやっぱり刺激的。それでいて、とても聴きやすい。ベーシストのソロというだけで拒否反応を示す人もいるかもしれないが、ビギナー向けの入り口も随所に用意されている。

 たとえばタイトル曲。クラブ・クラシックとしても有名な、デニース・ウィリアムスの名曲カバーだ。しかも歌っているのは、日本でも大ヒットしたコリーヌ・ベイリー・レイ。原曲のソフトな持ち味を生かしつつ、ベーシストとしての力量も過不足なく示したナイス・カバーになっている。

 「ミルキー・ウェイ」には、コンテンポラリー・ブルース界注目株のケブ・モが参加。ファンク・テイストの楽曲とシブいボーカル、そしてベースの相性は抜群だ。さらに「ウー」で歌っているのは、ダニー・ハサウェイの娘であり様々な場面で活躍中のレイラ・ハサウェイ。クールかつエモーショナルなボーカルが、めちゃめちゃスリリングですぜ。

 そして、ベイエリア・ファンクの代表格であるタワー・オブ・パワーの名曲カバー「ホワット・イズ・ヒップ」。マーカスの技量を発揮するにはぴったりの曲だし、サックスのデヴィッド・サンボーン、オルガンのチェスター・トンプソンもいいプレイをしている。

 マーカスも参加していたマイルス・デイヴィス『We Want miles』収録曲「ジャン・ピエール」、サックス・プレイヤーのトム・スコットと真正面から向き合う「ストラム」、中近東的な曲調とヒップホップ・オリエンテッドなトラックをミックスさせた「ブラスト」、ライヴでも頻繁に披露されるスティーヴィー・ワンダーのカヴァー「ハイアー・グラウンド」などなど、他も捨て曲皆無のクオリティ。最高傑作じゃないかという思いは僕のなかにもあって、ここんとこ毎日聴いている。

 Nさんもこれを手に取ったかな? がんばってるかな?
 いろんな思いが頭をよぎった。

お知らせ 多方面で活躍中の音楽ライター・印南敦史のブログ「印南敦史の武蔵野音楽日記」がついにOPEN!

  1962年東京出身。雑誌、ラジオなどで活躍中のエッセイスト/フリーライター/編集者/DJ。音楽を中心としつつ、食からバカネタまでに広く精通。すべてのカテゴリーにおいてマニアックに暴走することなく、独自の語り口でわかりやすく伝えることを信条としている。最新刊は『音楽系で行こう!』(ロコモーション・パブリッシング)。その他、『 あの日、ディスコが教えてくれた多くのこと』『ブラックミュージックこの一枚』(知恵の森文庫)など著作多数。
『TITLe』(文芸春秋)『ラピタ』(小学館)『BRIO』(光文社)『モノ・マガジン』(ワールド・フォト・プレス)『月刊PLAYBOY』(集英社)など、多くの雑誌に執筆。TBSラジオ『ストリーム』出演中。
脱力系日記が人気のウェブサイトは www.innami-atsushi.com/

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