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総合TOP > お役立ちインデックス > OnGenアーカイブス > インナミリコメン > 2005/11/24UP エリックB&ラキム


インナミリコメン 印南敦史の選ぶオススメの1枚
今回のPICK UP:エリックB&ラキム 『ペイド・イン・フル』
エリックB&ラキム 『ペイド・イン・フル』

TRACK LIST
  ダウンロード価格 
トラック\150(税込)
アルバム\1,500(税込)
 
  01. I Ain‘t No Joke  >>試聴  
  02. Eric B. Is On The Cut  >>試聴  
  03. My Melody  >>試聴  
  04. I Know You Got Soul  >>試聴  
  05. Move The Crowd  >>試聴  
  06. Paid In Full  >>試聴  
  07. As The Rhyme Goes On  >>試聴  
  08. Chinese Arithmetic  >>試聴  
  09. Eric B. Is President  >>試聴  
  10. Extended Beat  >>試聴  

うさんくさささえも武器にしちゃう、真似のできないダサかっこよさ!
   

80年代初頭、ヒップホップに価値観をぶち壊された。太くて硬いビート、自由度の高いラップという表現、過剰なまでの自己肯定意識……。それらすべて が衝撃的で、刺激的だったのだ。いやマジで、もしもヒップホップがなかったならまったく違った人生を歩んでた気がしますよ。よくも悪くも、ですけどね。

 で、グランドマスター・フラッシュに共感し、ランDMCにキックされ、パブリック・エネミーに殴られ、ギャング・スターの音から知性を学び……ってな ことを繰り返しているうちに20数年。
20年といえば、当時生まれた赤ちゃんだってもう成人なのだ。それだけ時間がたてば状況が変わるのは当たり前で、ヒップホップも(特に90年代後半以 降は)あり方自体が激変した。ある意味で現在のヒップホップは、僕の世代の手から離れている。否定的な意味ではなく、それが時代だということだ。
が、それでもいま50セントや彼のGユニットがやろうとしていることを理解できるのは、あのころ吸収した感覚が僕の根底にあるからだ。音の輪郭を超え た文化として、あるいは生きざまとしてヒップホップを把握できるというか。

 どうあれ、そんなわけで80〜90年代中期あたりまでの「ヒップホップ・クラシックス」は、いまでも僕のプレイ・リストに残っているのだが、ラン DMCやパブリック・エネミーと同じくらい大きな意味を持っているのが、今回紹介するエリックB&ラキムだ。

 DJのエリックBとラッパーのラキムによって1985年に結成された、ニューヨークはクイーンズのユニット。エリックBはオールドスクール・ヒップ ホップのラフさ(テキトーさ)を継承し、ソウルやファンクをベースとしたサンプリング方法にセンスを発揮した。ラキムはラップのリリック(歌詞)表現レベルを向上させ、それをストイックなラップ・スタイルによって表現、後世のラッパーに多大な影響を及ぼした。
'92年の解散までに4枚のアルバムを残し、ジョディ・ワトリーと共演した「フレンズ」のような大ヒットも生まれた。DJ志望の高校生がトラブルに巻き込まれていくさまを描いたヒップホップ映画『Juice』(悪役を演じていたのは2パック)のテーマ曲には、彼らの「Juice(Know the Ledge)」が採用された。彼らこそ、ビジネスとして巨大化していくヒップホップを本来あるべき位置に立ち戻らせることのできる存在だった。
だから4枚のアルバムは1枚も無視したくないのだが、なかでもダントツに際立っていたのは、'87年のデビュー作『ペイド・イン・フル』だ。常識的にはありえない音圧のバランス(というニュアンスは、聴いてみればわかります)からセンス最悪なジャケットまで、ここにはヒップホップ本来のダサかっこよさが凝縮されている。

 低音部だけ異常に分厚いビートがラップを際立たせる「アイ・エイント・ノー・ジョーク」、エリックBのコスリに独特のヘタウマ感(それがたまらない 味!)が表れた「エリックB・イズ・オン・ザ・カット」、超低速ビートがドープな「マイ・メロディ」、ジェームス・ブラウンをサンプルしたクラシック 「アイ・ノウ・ユー・ガット・ソウル」、客観的に考えればフックになりうる要素がないに等しいのに、とてつもない説得力を持った「ムーヴ・ザ・クラウ ド」や「アズ・ザ・ライム・ゴーズ・オン」、「アイ・ノウ〜」と並ぶ超クラシックで、いまなおクラブをロックさせている「ペイド・イン・フル」、中国風 (と呼ぶにはあまりにチープ)なトラックが6分17秒も続くなか、エリックBが延々とトランスフォーマー・スクラッチを続けるだけの「チャイニーズ・アリズメティック」、当時ファースト・シングルとしてカットされた「エリックB・イズ・プレジデント」、そして単なる「ムーヴ・ザ・クラウド」のインス トゥルメンタルなのに、ラストをうまく引き締める「エクステンディッド・ビート」まで、一曲も無駄がないのがすごい。そして中毒性があって、患者になっ たら離れられなくなる。
恐ろしいアルバムで、その裏づけになっているのはクイーンズの横町を歩いてきたふたりの生きざまだ

 もうずいぶん前、エリックBは日本のメーカーのディレクターからトラック制作を依頼され、前金を持ち逃げしたことがある(そのディレクターから聞いた)。ラキムは数年間の来日時、レコードに合わせて口パクするだけのお粗末なステージを見せたことがある(実際に見て、空いた口がふさがらなかった)。
どっちのエピソードも、すっごくうさんくさい。しかしなんとなく許せちゃうのは、そこからも生きざまが見えるからだ。このアルバムを聴けば、いいたいことはわかると思う。
ジェイ・Zやカニエ・ウェストも間違いなく影響を受けた(断言してもいい)、これがほんとうのヒップホップ・クラシックだ。

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  1962年東京出身。雑誌、ラジオなどで活躍中のエッセイスト/フリーライター/編集者/DJ。音楽を中心としつつ、食からバカネタまでに広く精通。すべてのカテゴリーにおいてマニアックに暴走することなく、独自の語り口でわかりやすく伝えることを信条としている。最新刊は『音楽系で行こう!』(ロコモーション・パブリッシング)。その他、『 あの日、ディスコが教えてくれた多くのこと』『ブラックミュージックこの一枚』(知恵の森文庫)など著作多数。
『TITLe』(文芸春秋)『ラピタ』(小学館)『BRIO』(光文社)『モノ・マガジン』(ワールド・フォト・プレス)『月刊PLAYBOY』(集英社)など、多くの雑誌に執筆。TBSラジオ『ストリーム』出演中。
脱力系日記が人気のウェブサイトは www.innami-atsushi.com/

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