記憶って、けっこういいかげんなものなんだなあと思う。
「ああ、あれは○年のねえ」なんて知ったような口調で話した結果、それがまったくの記憶違い、的外れ、つまりは大きな勘違いだったりすることがたまにあるのだ。
たとえば寺尾聡の『リフレクションズ』。大ヒットしたこのアルバムについての記憶なんかももう、とんでもなくいいかげんだった。
どこへ行っても「ルビーの指輪」が流れていた当時は高校生で、悪友のM田やU野と学校帰りに公園でタバコふかしながら、その曲のかっこよさを語りあっていた。いい思い出で、つまりスノッブな「ルビーの指輪」は、その時代を生きた僕らのサウンドトラックでもあったのだ。
とかスラスラと書いているのだが、早い話、まったくの勘違いだったのである。レコードを引っぱり出して調べてみれば、これは1981年のレコードだ。ということはすでに僕は19歳だったわけで、悪友と語り合ったという記憶とはいったいなんだったのだという話になる。
つまりは僕の記憶力なんてたかが知れているということであり、「あんまり大口叩くと恥をかくぞ」という戒めでもあるのだろう。
それはともかく、81年だとしたら時代的には理解できなくもない。なぜってこのアルバム、当時のおしゃれ音楽だったAORに匹敵する完成度を備えた極上のシティ・ポップスだったからだ。
寺尾聡は、名優として名高い宇野重吉の息子である。60年代にはヒット曲「いつまでもいつまでも」でおなじみのザ・サベージに在籍していた人でもある。
しかし当時は圧倒的に『西部警察』のイメージが強かった。なのにそういう人がいきなり質の高い音楽作品をつくり、大ヒットさせてしまったのだからなおさら衝撃は大きかった。
驚かされるのは、とても洗練された全曲が寺尾本人の作曲だという事実。さらには作詞に松本隆、アレンジとキーボードに井上鑑、ギターに松原正樹、パーカッションに斉藤ノブ、トロンボーンに向井滋春などなど、ちょっとクレジットをチェックしただけでもびっくりするような名前がどんどん出てくる。
決して俳優のお遊びなんかではなく、水準以上のクオリティを備えたすばらしいアルバムなのだ。
いままた聴きなおしてるんだけど、洗練された曲調が最高。バランスのとれた演奏をバックに、淡々と歌う寺尾のヴォーカルもいいですね。決してうまいというタイプではないかもしれないが、妙にさめた雰囲気がめちゃめちゃクールなのだ。
「煙草をくわえて窓を上げたら ようやく自分に戻った気がするぜ」という歌詞がかっこよすぎる冒頭の「HABANA
EXPRESS」。松本隆の世界観がはっきり表れた「渚のカンパリ・ソーダ」。レゲエのビートを取り入れた「喜望峰」。静かな曲調が、後半から寺尾流シティ・ポップス路線へと転調する「二季物語」。ユニゾンするギター・フレーズと寺尾のスキャットが渋いシングル・カット曲「SHADOW
CITY」。さわやかな曲調の「予期せぬ出来事」。電話の呼び出し音がものすごく効果的な「ダイヤルM」。ちょっと歌謡曲チックな展開が新鮮な「北ウイング」。落ち着いたシングル・ナンバー「出航SASURAI」。
代表曲である「ルビーの指輪」はいうにおよばず、全曲が高品質。お世辞でもなんでもなく、「捨て曲」はひとつも見当たらない。
上記楽曲タイトルの字面だけ見ると、彼の美意識はダサさとのギリギリのボーダーラインにあるように思えるかもしれない。というか事実、歌詞のいくつかは普通の感覚でとらえれば「くっさァ〜」となってしまっても不思議ではない。
が、寺尾がすごいのは、彼が歌えばダサいものもちょっとおしゃれっぽくなってしまうという点にある。「ああ、きっとこういうものなんだろうな」と納得させられてしまうのだ。
いわばどんな表現をも自分のものとして飲み込んでいるわけで、だからこそ、いま聴いてもまったく古くささを感じさせないのだろうと思う。
懐古趣味からこういう話をしているわけではない。
いま20代くらいの人でも、聴いてみれば僕のいいたいことがはっきりとわかるはずだ。
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