総合TOP > お役立ちインデックス > OnGenアーカイブス > 富澤一誠のフォークが好き!> 2006/01/11 井上陽水(3)
「夢の中へ」に続く井上陽水のシングル「心もよう」は1973年9月21日に発売され前作以上の大ヒットとなった。さらに12月に発売されたアルバム『氷の世界』も発売1ヵ月で30万枚を売り切り、'74年にはなんと日本初のミリオンセラー・アルバムとなり、“陽水ブーム”を引き起こす原動力となった。 「心もよう」は、故郷に住んでいる恋人と遠く離れて暮らしている男の心情を歌にしたものだ。ここでうたわれているのは、男の寂しさ、たまらない不安といったこと。遠く離れていれば、かつてのように毎日はとても会えない。相手に会えなければ寂しさが募り、その寂しさを手紙でまぎらわせようとする。しかし、手紙というのは、書き終えてしまうと、寂しさがまぎれるばかりか、いっそう募るばかりだ。また、たえず一方通行なので、そこには意思の疎通を欠きやすい。陽水は「心もよう」でその辺の真理を実に巧みに表現している。 “季節はめぐり あなたをかえる”──このフレーズには、離れて暮らす者の不安な心理状態がある。季節はめぐり、つまり、時がたてばたつほどあなたを変えてしまう。なぜあなたを変えてしまうのかというと、人間は自然にそのときの環境に適応してしまうからだ。 ここでポイントは“あなたをかえる”であって“あなたはかわる”ではないこと。前者の主語はあくまで“季節”で、後者は“あなた”。このふたつには大きな違いがある。“あなたはかわる”なら、あなたが自発的に心変わりしたことだが、“あなたをかえる”の場合は、まさに時、環境があなたを変えてしまうということだ。そんなことを考えると、このフレーズには、自然の時の流れに人間の心が変わってしまう、というやるせなさがこめられているようだ。 その意味では、「心もよう」はただの感傷ソングではない。遠く離れて暮らすふたりの間に横たわる心情を切々とうたい、ひいては人間の悲しさ、時の流れの無常さまでも表現しえているようだ。そんな人間の深層心理までをも表現しえたからこそ、「心もよう」は多くの人々の心をとらえ支持されたのだろう。