で、なんでそんなことを書いたかというと、周りの若いDJの子達と喋っていると、今の時代のものしか聴かず、いわゆるクラシックなマスターピースを知らないので、画一的な同時代の音しか作れないことが多いからです。そんな人達に是非聴いて欲しい一枚が、エリック・B.&ラキムによる’87年の名盤『ペイド・イン・フル』に、貴重なリミックス集をディスク2(ここでは11曲目以降)に追加した’99年(アメリカでは’98年)の『ペイド・イン・フル+グレイト・リミキシーズ/Paid In Full The Platinum Edition』です。実は『ペイド・イン・フル』、以前ここの連載陣のひとりである印南敦史さんの『インナミリコメン』でもピックアップされています。なので、概要はそちらにお譲りしつつ、僕は少し違う観点から書いてみたいと思います。
もともとアメリカのゲイ・シーンで支持されていたアンダーグラウンドなサウンドであるハウスが、イギリスに渡り市民権を得てメジャーになるんですが、そんなハウスの黎明期によく声ネタとして使用されたのが、ラップ系ではエリック・B.&ラキムやパブリック・エネミーでした。イギリス産ハウスとして、初めて全英チャートのNo.1(’87年)を獲得したM/A/R/R/Sの「Pump Up The Volume」は、エリック・B.&ラキムの「I Know You Got Soul」から例の“Pump Up The Volume”という声ネタをサンプリングしています。更に掘り起こしておけば、この曲自体がボビー・バードの「I Know You Got Soul」を拝借しているんですが(笑)。また「I Know You Got Soul (Acapella)」を聴けば、ネタ元というのが良く解るでしょう。他にもいろんな曲で使われています。
あと、重要なのはアルバムタイトルにもなっている「Paid In Full」です。ただし、この曲をメジャーにしたのはコールドカットによる画期的なリミックス・バージョン「Paid In Full (Seven Minutes Of Music - The Coldcut Remix)」があってこそ。“Pump Up The Volume”というサンプリグを挟み込んだだけでなく、当時まだ世界的には無名だったオフラ・ハザ(残念ながら2000年没)の「Im Nin'Alu」を取り入れ、モリ・カンテの「Yeke Yeke」など同じくワールド・ミュージックのダンス・ミュージック化を牽引しました。余談ですが、個人的に「Im Nin'Alu」が大好きで、昔クラブ用にブートレッグでハウス・バージョンを作ったことがあります(笑)。閑話休題。そんな訳で、オリジナルよりもリミックスがメジャーになったため、ビデオクリップはリミックスがベースに作られていました。