敬愛するトレヴァー・ホーンが最も長きに渡ってプロデュースを手掛けてきたアーティスト、シールを今回はピックアップします。しかしながら、姉さん、事件です(『ホテル』風に)。4年ぶりとなる新作『
システム』では、スチュワート・プライスがプロデューサーに起用されているんです。となるとシールのハスキーなボイスと相性のいいアンダ・ダドリーの流麗なストリングスも聴けなくなるわけで、ちょいと危惧したわけですが、
マドンナや
ニュー・オーダーでいい仕事を連発しているスチュワート・プライスだけにその辺はノー・プロブレムでした。
もともとシールは、’90年に全英No.1に輝いたアダムスキーの「Killer」というハウス・クラシックにフィーチャーされて脚光を浴び、トレヴァー・ホーンの運営するZTTと契約に至りました。そうしたこともあり、サウンドが幅広くなっていきながらも、常にリミックスが周到に用意され、クラブ系の人にも根強い人気を誇っているのです。ちなみに、引っ張り出した当人であるアダムスキーの方は、その後ZTTからアダムスキーズ・シングとL.a.z.y.というユニットを稼働させましたが、 現在は離れて
アダム・スカイとして地道に活動しています。
本題に戻りましょう。『
システム』は、’04年のベスト盤『
ベスト1991-2004』(輸入盤はトレヴァー先生プロデュースによる全編アコースティック・バージョンのディスクが付いた2枚組)で一区切りを付けたシールが、原点である’91年のデビューアルバム『
SEAL』風を装いがらも、進化した形を見せつけてくれるアルバムに仕上がっています。リードシングルである「
Amazing」なんて、ソロデビュー作である「Crazy」を再現しているかのようです。テクノロジーとソウルの融合を念頭に置きながら、決して単なるノスタルジックだけで終わらせないのは、DJ的感覚が鋭いスチュワート・プライスの手腕といえるでしょう。ご存知の方も多いでしょうが、この名前ではプロデューサー的活躍を見せていますが、ジャック・ル・コント名義ではDJ活動をし、『FabricLive』などのMIX CDも出しているのです。また、もともと世に出て来たのは、WALL OF SOUNDからのレ・リズム・ディジタル名義でした。このときも、弱冠二十歳過ぎの人間が80年代への敬愛をサウンドに乗せていて度肝を抜かれたのですが、その後もズート・ウーマンに
マン・ウィズ・ギターなど何個プロジェクトを稼働してるんだという働きっぷり。ちなみに「
Amazing」をエディットしているシン・ホワイト・デュークも同じで、この名義は
フェリックス・ダ・ハウスキャットの「Silver Screen Shower Scene」のリミックスなどで使っていました。
シールの最新アルバムながら、どこか昔に聴いたような懐かしさを覚えるのは、レイドバックしたサウンドを得意とするスチュワート・プライスが、プロデュースだけでなく、楽曲制作にも大きく関与しているからなんですね。あと、もうひとり重要なのが、実に5曲もの作品に共作者として名を連ねているエリック・シャーマーホーン。もともとザ・ザに参加していたギタリストで、実際に「
Rolling」でシールとともにギターを弾いています。これは、今回のアルバムにおける作曲が、ギターをベースにしていると言い換えることも出来るでしょう。あと「
Wedding Day」でデュエットしているハイディは奥方であります。個人的に一番好きなのは、リミックス映えしそうな「
The Right Life」ですかね。
あと、日本盤には「
Amazing」のカスケードとビル・ハメル・リミックスが収録されているのも見逃せません。というのも、フロリダのビル・ハメルは、
マドンナや
ニュー・オーダーなどメジャー・アーティストのリミックスを数多く手掛けているんですが、シールの「
Get It Together」でグラミーのベスト・リミックスにノミネートされたこともありますからね。
さて、アーサー・ベイカー(
ニュー・オーダー亭参照)を夢見ていた少年=スチュワート・プライスは、シールを手掛けたことで、本当に80年代のアーサー・ベイカーのように、いや以上の存在になってしまいました。もちろん、それはシールという本質が優れているからに他ならないんですがね。