今年3度目のロシアから戻って来ました。テレビの音効さんなら、こういう映像のときテレックスの「Moscow Discow」あたりを選ぶと思うんですが、少しヒネるとモロコなんかも面白いですかね。ロシア語でミルクの意味なので。そんなモロコの
ロェシーン・マーフィーも新作『
Overpowered』を出しましたが、まだこちらではシングルのみの配信なので、今回はモロコらを生む下地を作ったともいえるトリップ・ホップ(死語ですね)の元祖、マッシヴ・アタックの衝撃的な’91年のデビューアルバム『
ブルー・ラインズ』をピックアップします。
イギリスのブリストルに目を向けさせ、この地から後に多くのアーティストを排出する契機となったのがマッシヴ・アタックなわけですが、この地は、レゲエ・インフルエンスが特徴的で、そのため独特の音楽性を持った人が多く出てきています。当然マッシヴ・アタックも、その色が濃く出ています。元々、ダディーG、DJマイロ、ネリー・フーパー、クロード・ウィリアムス、3D、マッシュルームによるザ・ワイルド・バンチという前身があったっんですが、この名義ではオリジナルを「Friends And Countrymen」しか残していません。にも拘らず名前の認知度が高いのは、ザ・ワイルド・バンチを離れたあとのネリー・フーパーが、マッシヴ・アタックより一足先にブレイクを果たす
ソウル・トゥー・ソウルに全面的に関わり、大プロデューサーとなっていくからなんですね。また、日本ではマイロがMAJOR FORCEとの関係が深かったこともあり、コアな人には知られる存在だったわけです。
では、マッシヴ・アタックとしてはどうかというと、ダディーG、3D、マッシュルームの3人で、スミス&マイティを共同プロデューサーに迎え、のちにソロデビューを果たすカールトンをフィーチャーして「
Any Love」で’88年にデビューします。続いて「
Daydreaming」が’90年全英81位を記録するんですが、この作品から3曲続けてシングルは全て同じゲストボーカリストになります。それが「Friends And Countrymen
」収録のバカラック&デヴィッドの「The Look Of Love」を歌っていたシャラ・ネルソンです。のちに彼女も当然のようにソロとなりますが、彼女の声があったからこそ、ダークな音像のマッシヴ・アタックに色を与えたのです。そして事件が起こります。時は’91年、そう湾岸戦争です。シャラ・ネルソンをフィーチャーした「
Unfinished Sympathy」が、ユニットの名前が刺激的という理由で、レコード・スリーヴにマッシヴと明記されてしまいます。当時のことは今でも覚えていますが、イギリスの『DJ』誌を読んでいて、このニュースを知りました(今みたいにインターネットが無い時代)。なので、このレコードは今でも僕の大事なコレクター・アイテムの1つになっています。閑話休題。そんなことで、逆にニュースになったマッシヴ・アタックは、この曲で全英13位を記録しました。余談ですが、この曲は
ティナ・ターナーにもカバーされています。もう1曲、シングルカットの際、ネリー・フーパーが手掛けたことがクラブファンに話題となった「
Safe From Harm」が’91年全英25位になっています。
さて『
ブルー・ラインズ』はシングル曲以外にも聴き所は満載なのですが、細かいところに触れれば、のちにマッシヴ・アタックが運営するMELANKOLICからもアルバムを出す
ホレス・アンディが「
One Love」「
Five Man Army」「
Hymn Of The Big Wheel」に参加していたり、ウィリアム・デ・ヴォーンのカバーである「
Be Thankful For What You’ve Got」があったり、何気にいろんなサンプリング・ネタがあったり…キリがありませんが、最後にもう1つ。「
Hymn Of The Big Wheel」に
ネナ・チェリーの名がクレジットされているのですが、詳しい話は長くなるので
ネナ・チェリー亭を読み返して下さい。
’92年には「Massive Attack EP」として「Hymn Of The Big Wheel」「Home Of The Whale」「Be Thankful For What You've Got」「Any Love」という4曲(ネリー・フーパーを含むリミックス系)をまとめた作品がカットされ全英27位になっていて、結局アルバムの実質半分以上がカットされた形になりました。
表現上では、ダウンテンポのブレイクビーツにヒップホップらのエッセンスを昇華させたトリップホップは、ブリストルという土地に根付いた音楽=レゲエ、つまりダブの手法を用いたからこそ完成し、マッシヴ・アタックというアーティストがいたからメジャーになったわけです。『
ブルー・ラインズ』はそうしたトリップホップの原点となるアルバムです。ベスト盤ではなく、このデビュー作で、当時イギリスに起こった新たな音楽の息吹を感じて下さい。