洒落たボサ・ノヴァに、ソフトなロックン・ロール(ゴー・ゴー)のリズムを掛け合わせた斬新なブラジル音楽が、アメリカのA&Mレコードから登場したのは1966年。「マシュ・ナ・ダ」で一世を風靡した、セルジオ・メンデス&ブラジル'66。名前の通り、1966年にアルバム『Sergio Mendes&Brasill '66』でデビューしている。セルジオ・メンデス自身は、64年にはアメリカに進出しており、65年にワンダ・ジ・サーと一緒に『Brasill '65』を米キャピトルから、66年にもブラジル'65名義のアルバム(『In Person At El Matador!』)を米アトランティックからリリースしているが、世界的に有名になったのは66年のブラジル'66の結成以降なので、“祝40周年”にあたる年が今年、2006年ということになる。
この40周年という節目に、現在のヒップホップ・シーンを象徴する存在である、ブラック・アイド・ピーズのリーダー、ウィル・アイ・アム(will.I.am)とのコラボレーションが実現したということは、まさに驚き。セルジオ・メンデスにとっての“ジャイアント・ステップ”とも称される本作『タイムレス』の誕生である。
ブラジル音楽の巨匠であり、A&Mレコード時代には、ハーブ・アルパート&ザ・ティファナ・ブラス、クリス・モンテス、サンドパイパーズなどと並び、イージー・リスニング/AOR系ポップスの代表アーティストとして大成功を収めたセルジオ・メンデス。70年代に入っても勢いは衰えず、同じA&M所属のカーペンターズと人気を2分しつつ、ブラジル'77〜ブラジル'88とグループ名を変えながら不動の人気を誇ってきた。
セルジオ・メンデスにとっても10年振りとなるこの新作、ウィルが長年のセルメン・ファンで、音楽的にも大きな影響を受けていたことから、ウィル自らアプローチしていって共演が実現した。まず、ジョン・トラボルタ主演の映画『ビー・クール』で使われた「セクシー」を録音。この、ヒップホップとブラジル音楽のリズムの組み合わせに、今までにない新鮮さを体感したメンデスは、ウィルをプロデューサーに迎えアルバム制作に乗り出すことになる。
40年前に吹き込んだ「マシュ・ケ・ナダ」のブラック・アイド・ピーズ・バージョンをはじめ、ブラジル音楽のエッセンスを集めた選曲が素晴らしい。それに、話を聞きつけて集まった大物ゲスト・ミュージシャンにも注目だ。メンデスの奥様でもあるグラシーニャ・ラポラーセのボーカルとスティーヴィー・ワンダーのハモニカが絡む「ベリンバウ〜」、エリカ・バドゥやジル・スコット、インディア・アリーといったオーガニック・ソウルの大物が参加した「ザット・ヒート」「レット・ミー」「タイムレス」の味わい深さ、ア・トライブ・コールド・クエストのQ-ティップをフィーチャーした、セルメン往年の名曲「ザ・フロッグ」も刺激たっぷり。レゲトンで処理したミスター・ヴェガス参加の「バナナイラ」や、ブラジル人ラッパーのマルセロ・デードイズを迎えた「サンバ・オブ・ザ・ブレッシング」から、グラミー賞男ジョン・リジェンド、ジャスティン・ティンバーレイクの人気スター参加の「プリーズ・ベイビー・ドント」「ルース・エンズ」など、とにかく贅沢なコラボレーションが満載!ブラジル音楽とヒップホップ/R&Bの幸福な出会い。これを聴かずして、2006年は始まらない!
(Text/遠藤哲夫)
当時のA&Mレコードといえば、ハーブ・アルパートがメキシコ音楽を取り入れた“アメリアッチ・サウンド”、セルジオ・メンデスがボサ・ノヴァを取り入れたミドル・オブ・ザ・ロードのポップス、という風にエキゾチックさを醸し出しながらも見事にイージー・リスニング化された洒脱なサウンドを聴かせていた。ジョルジ・ベン作曲の「Mais Que Nada」、同じA&Mのバート・バカラック作の「The Look Of Love」をはじめ、セルメンを特徴づけていた、ロック/ポップスのカバー曲が今も新鮮に響くのは、時代が一巡りしたから?ビートルズのカバー「The Fool On The Hill」「Day Tripper」はセルメンが最高だ!
ヒット曲以外にも名曲はたくさんあるが、とりあえずこの10曲から始めてみてはいかがでしょう?
メンバーは、初代の女性ボーカルにラニ・ホールとジャニス・ハンセン、リズム陣はボブ・マシューズ(ベース)、ジョアン・パルマ(ドラムス)、ホセ・ソアレス(パーカッション)。4作目でメンバー・チェンジがあり、ジャニスに変わりカレン・フィリップが、そしてドラムスに名手ドン・ウン・ロマンが加入する。ブラジル'77になると、看板シンガーだったラニ・ホールが抜け、メンデスの奥さんであるグラシーニャ・レポラーセがボーカルを取る。
ブラジル'66名義での2作目。デビュー作同様、ハーブ・アルパートのプロデュースで、世のサイケデリック志向を反映してか、シタールを取り入れた「Constant Rain」でアルバムが始まる。アントニオ・カルロス・ジョビンの「Wave」「Triste」「Jazz N Samba」やジョアン・ジルベルトの「Bim Bom」などを取り上げている。 ミシェル・ルグランの「Watch What Happens」、ジルベルト・ジルの「Gente 」も隠れた名曲。
ブラジル'66名義での3作目。セルメンのアルバムには欠かせないビートルズ・カバー「With a Little Help〜」を軽やかに決め、ジルベルト・ジル、ドリ・カイミの曲が続く。数々の有名カバーが存在する「Tristeza(さようならといって)」は男性ボーカルをフィーチャー。マルコス・ヴァーリ作の「Batucada」や、ジョアン・ドナートの「The Frog」等、ジャケット同様の明るい色彩感に溢れたアルバム。
白人サックス奏者のスタン・ゲッツがボサ・ノヴァに興味を示し、チャーリー・バードとの『ジャズ・サンバ』に続いて録音したのが本作。ジョアン・ジルベルトとその妻、アストラッド・ジルベルト、アントニオ・カルロス・ジョビンを迎え、世界で最も有名なボサ・ノヴァ「The Girl From Ipanema(イパネマの娘)」の他、「Corcovado」「Desafinado」の珠玉の名曲達。全世界にボサ・ノヴァを広めた歴史的名盤。
近年、70年代の作品が再発され注目を集めるマルコス・ヴァーリ。ワンダ・サーが脱けたセルジオ・メンデスのブラジル'65に加わるためにアメリカに渡り(活動は短かったが)、妻アナ・マリアとの夫婦デュエットで録音されたのが本作。ワルター・ワンダレーでヒットした「Summer Samba」をはじめ、定評のある高速サンバを聴かせる「Batucada」「Crickets Sing For Anamaria」など、良質なポップスとしても大傑作!