「ビートルズの中で一番好きな人の人気投票をしたら、僕はビリになるだろう。だけど、二番目に好きな人となったら、たぶん僕がトップだろうね」
リンゴ自身による有名な言葉であるが、誰からも愛されるビートル、それがリンゴ・スターだ。
ビートルズ時代にはドラムスの他、「イエロー・サブマリン」「ウィズ・ア・リトル・ヘルプ・フロム・マイ・フレンド」、「オクトパス・ガーデン」などでリード・ボーカルを取り、ビートルズ解散後の70年代前半は、「明日への願い」「バック・オブ・ブーガルー」や、「想い出のフォトグラフ」「ユア・シックスティーン」の連続全米1位など、他のメンバーの誰よりもヒット曲数の多かったリンゴ。そして、ビートルズの故郷であるリヴァプールが2008年、欧州文化首都になることで、さまざまなイベントが催される。その幕開けイベントに参加するリンゴの新曲が「Liverpool 8(哀愁のリヴァプール)」だ。
『Liverpool 8』は、リンゴ・スターが怒涛の勢いでヒット曲を連発していた、古巣EMI/キャピトルへ34年ぶりに復帰してのアルバムとなる。74年の『グッドナイト・ウィーン』を最後(76年にベスト盤『想い出を映して』が出ているが)に、アトランティック、マーキュリー、ボードウォーク、プライヴェート・ミュージック、Kochなどいろいろなレーベルを渡り歩いていたリンゴが辿りついた懐かしの場所。それが、EMI/キャピトルであり、そしてタイトルにもなっている生まれ故郷リヴァプールである。“Liverpool 8”とは、リンゴが生まれ育った地区“リヴァープル8区”を表している。80年代の低迷期から見事カムバックし、90年代以降は、リンゴ・スター&ヒズ・オール・スター・バンドの活動は勿論、『タイム・テイクス・タイム』『ヴァーティカル・マン』『リンゴ・ラマ』『チューズ・ラヴ』とコンスタントにオリジナル・アルバムを発表し、その内容も決して70年代の『リンゴ』や『グッドナイト・ウィーン』に劣るものではない。そして今、リンゴのソロ・キャリアにおいて、新たな頂点を示す大傑作アルバムとして登場したのが『Liverpool 8』なのである。
『ヴァーティカル・マン』から、主要なソングライティング・パートナーとなっているゲイリー・バー、マーク・ハドソン、スティーヴ・デューダスといった人達は引き続き参加しているので、ポップ・カントリーとビートルズを混ぜ合わせたようなテイストは健在ながら、元ユーリズミックスのデイヴ・スチュワートをプロデューサーに迎えていることから、これまでとは一味違ったリンゴの世界が確立された。本作は晩年のリンゴのアルバムの中でも最高傑作と呼べる快心の出来ばえである。
リンゴとデイヴ・スチュワートの共作による、自伝的作品である「哀愁のリヴァプール」は、ビートルズへの素晴らしいオマージュであると共に、リンゴのボーカルでなければこの味は出ないだろうという、リンゴの個性が爆発している名曲。哀愁たっぷりに始まり、ストリングスの絶妙なアレンジや、後半にかけて盛りあがっていくコーラスも派手さたっぷりで気持ちいい。「過ぎ去りし日々」は、ジョージ・ハリスンを彷彿させるインド風なイントロから、スペイシーなロックへと展開する、これもデイヴ・スチュワートの手腕が冴えるフューチャー・レトロな作品。「愛のために」は、ハードな中にもポップなメロディが頭を駆け回る、ちょっとELOを思わせるコーラスが抜群の佳曲。「君を慕いて」や「タフ・ラヴ」などは、シンプルなロックンロールなのだが、どこか80年代ニュー・ウェイヴを感じさせるひねりの効いたアレンジやコーラスが印象的。「シーズ・ゴーン・アウェイ」にしても、ボ・ディドリー・ビートで始まりながらも、曲が進むにつれてめくるめくポップの迷宮にはまり込んでいく不思議な感覚がある。どれも、懐かしさを覚えるメロディながら、サウンド的にはすごく新しい感じ。「君が望む愛」も、まるでCCRのような田舎臭いサウンドが、最新型ポップに変化していく。聴けば聴くほど、サウンドの魔術にはまっていくような感覚を覚えるのだ。その中で、リンゴのボーカルがしっかりと存在を主張している。
さらに、リヴァプールらしさを醸し出しているトラックとして、ポール・マッカートニーも関わっていたピーター&ゴードンを思い起こす「ギヴ・イット・ア・トライ」、ノスタルジックでアコースティック・スウィングの粋なノリと口笛にノックアウトの「ハリーズ・ラヴ」、スパニッシュ風味でムード満点の「パソドブレ」など、どの曲も印象深い。オリジナル楽曲でここまで勝負できるリンゴの才能に改めて敬意を表したい。
昨年リリースされたベスト盤『フォトグラフ : ザ・ヴェリー・ベスト・オブ・リンゴ・スター』は、リンゴの歴史を振り返るには最適のアルバム。デジタル版は、英ポリドール系の楽曲が差し替えられているものの、レーベルを越えた選曲がなされており、80年代を代表する「ラック・マイ・ブレイン」や、91年にリンゴ復活を告げるヒットとなった「ウェイト・オブ・ザ・ワールド」、ジョージ・ハリスンに捧げた「ネヴァー・ウィズアウト・ユー」(ギターはエリック・クラプトン!)などの忘れ難い曲も収録。こちらも是非、併せて聴いて欲しい。
(Text/遠藤哲夫)