大物プロデューサーのアリフ・マーディンが、息子のジョンとともにプロデュースを手がけたデビュー作『ステイト・オブ・マインド』は衝撃的でしたよね。アコースティック・ギターとボーカルを軸とした音の質感は耳に心地よく、理屈抜きで訴えかける力がそこにはあって。
でも彼が盲目であるということは、少なくとも僕にとってはそれほど重要ではない。そういうことばかりを、必要以上に取り沙汰したくないから。ただ、盲目だからこそここまで繊細な音をつくれるという部分はあるのかもしれない。彼がつくる音楽の無駄のなさ、洗練性などについて考えると、そんなふうにも思える。
さて、今回ご紹介する『世界の中の世界』は、彼がおよそ2年ぶりに発表したセカンド・アルバムだ。「地球というより広い世界における僕の世界」と本人が語るとおり、感性をギリギリまで研ぎすませたうえで、そこから得たものを楽曲のなかにひとつひとつじっくりと落し込んでいったような印象。ってな表現はわかりにくいかもしれないけれど、守備範囲を広げ、『ステイト・オブ・マインド』にはなかった広がりを生み出しているのだ。アコースティックのみならず、彼のルーツでもあるラテン、ソウル、R&Bまで。
ミュージシャンには彼が敬愛する人たちが選ばれているそうで、なんといっても注目すべきはベースのミシェル・ンデゲオチェロ。研ぎすまされた音楽性を持つ彼女が参加しているというだけでも、興味を抱かずにいられない人は多いのではないだろうか。
他にも、同じくベースにチャカ・カーンからロバータ・フラックまで多くのレコーディングに参加してきているジェリー・バーンズ、クラリネットにキューバのサックス/クラリネット奏者であるパキート・デリヴェラ、そしてクリスチャン・マクブライドなどの作品で名演を披露しているシェドリック・ミッチェルがハモンド・オルガンで加わっている。
つまりはバンドが加わったといっても必要最小限なレベルなわけで、そんなところからも自分のスタイルを通そうという意気込みが感じられるのだ。
オープニングの「ピック・サムバディ・アップ」、その冒頭にアコースティック・ギターの音色が聞こえてきた時点ですでに合格って感じだ。この心地よいギター、そして柔らかくも熱いボーカル、『ステイト・オブ・マインド』の延長線上に位置する、これこそがラウル・ミドンの世界でしょ。ストリングスも、すごくいい効果を生み出している。
で、続く楽曲群についてもバラエティ豊かだ。少ない音数のなかで歌がはじまり、やがてほどよい熱さを備えたバックのサウンドが重なる「ラヴ・イズ・ゴナ・セイヴ・マイ・ライフ」の落ち着き、いかにもドライブに似合いそうな「オール・ジ・アンサー」や「ザ・モア・ザット・アイ・ノウ」のさりげないグルーヴ感、アカペラ・コーラスをバックにゆったりとした歌を聴かせてくれる「エイント・ハプンド・イェット」のハッピーな雰囲気、R&Bのムードを彼ならではの感性で噛み砕いた感のある「オール・ビコーズ・オブ・ユー」や「ピース・オン・アース」、「テンベレラナ」や「カミナンド」に反映されたメロウなラテン・フレイバー、「ソング・フォー・サンドラ」のアコースティック感と、本来の自分らしさを軸にさらなる発展を実現しているのである。
こうくるだろうなと予想はできたものの、予想をはるかに上回る完成度。感傷的な気分を味わいたくなるような、これからの季節にもぴったりフィットしますぜ。
(text/印南敦史)