メジャー・デビュー作『Nevermind』がアメリカで猛威をふるい、日本上陸を果たした1991年ごろ。冒頭に挙げたカート・コバーンのコメントは、しばし引用された(「かきまわされた」が4文字言葉になっていたり、言い回しは複数ある。余談だが)。引用されたバンドが絶妙、という点もあるが、それよりも「どう説明していいのやら」と、日本のメディアがお手上げだった故だろう。'92年の来日時も「インタビューの際はパジャマ姿でクッキーをかじり続けていた」なんてエピソードが強調され「奇人バンド」扱いの色が濃く、ハッキリ言って「なんだか分からないがアメリカじゃ売れてるから取り上げとこう」という雰囲気であった。ちなみに『Nevermind』の日本盤解説が某有名HR/HM誌の方なのも、その表れと思う(書き出しが「メタリカ・カークが最近お気に入り」である)。彼らの出自はマッドハニー、L7、TADらを輩出したインディ・レーベル「SUB POP」であり、熱心なリスナー以外に日本で知る人は少なかった。また、先輩格(と、しておこう)のソニック・ユースのアート性、ダイナソーJr.の轟音美メロといった、明確なフックが無かった点もあろう。しかし、そんな事はどうでもいいとばかりに、アメリカとおなじく日本でもティーンネイジャーたちは即座に飛びついた。当時は民放でも、とくにUHF局で、洋楽のビデオクリップを見られる機会も多く、チアガールとモッシング、クラウド・サーフがバスケットコートで繰り広げられる「Smells Like Teen Spirit」のクリップを前に、総毛立つものを覚えた記憶がある。遅れてきたパンク・ロック−やっと、自分たちから始まる音楽が誕生した。その興奮が広がっていった。
明けて'94年の4月。本人の意思と無関係に渦巻く名声と期待、それに反する自らの居たい場所=アンダーグラウンドとの間で混迷を極めた末、カート・コバーンは自ら猟銃で頭を撃ち抜いた。享年27歳。望まざると、伝説のロッカーとなってしまった。死後、 『MTV Unplugged In New York』『From The Muddy Banks Of The Wishkah』という、対照的だが内容の素晴らしさでは比肩する2枚のライブ・アルバムが発表された。前者にはデヴィッド・ボウイの「世界を売った男」のカヴァーが収録され、推測好きな人たちにはカートの心理・心境を思う格好の的になった。ともあれ、B.C.Rとまで言わずとも、爆音を脱いだことでメロディのキャッチーさが際立つ。後者は、ひたすらパワーの塊。今からニルヴァーナを聴くならば、まずこの作品をおすすめしたい。どの曲も聴いてほしいが、「Intro」に入ったスクリームが凄まじい。恐らくリハーサルの模様だろうが、この声を出せた人間が死んでいるとは思えない。ロウ・パワーという言葉がよぎる。彼らの軌跡を美化して眺めているくらいなら、まずは何回でも音に触れるべきだ。
“オルタナティブ”の奔流を促し、アメリカのロックシーンの位相を完全に逆転させた一作。プロデュースは後にガービッジを結成するブッチ・ウィッグ、ミックスにアンディ・ウォレスを起用し、クリアなのにヘヴィという全く新しい音が生まれた。改めて聴くと「Come As You Are」「Territorial Pissings」あたりの直線的なリフがニルヴァーナの基本であり、「Smells Like Teen Spirit」は異質ともいえるポップ性の高いナンバーなのだと思った。しかし、この破壊力はやはり凄まじい。他にも、ドアーズの匂いを感じさせる「Lounge Act」、次作へ繋がるダークネスを持つ「Polly」など、曲のバリエーションも広い。誤解を恐れもせず、90年代最強のポップ・アルバムのひとつと呼びたい。
音楽専門チャンネル『MTV』の企画に出演した際のライブ録音。アンプラグド、つまり、ほぼアコースティックという、ニルヴァーナのイメージとは離れたスタイルであり、出演自体に驚きの声が上がった。当日は3人に加え、USオルタナの良心(そんなものあるのか?)ミート・パペッツのメンバーや、のちにデイブとフー・ファイターズを結成するパット・スメア(現在は脱退)などのラインナップ。「Come As You Are」「All Apologies」といった自曲はもちろんだが、時に影響を感じてならないデヴィッド・ボウイ、カートの愛するグラスゴーのバンド・ヴァセリンズ、ミート・パペッツといったカヴァーも織り交ぜてプレイ。カートのリラックスした様が伝わってくる、貴重な作品である。
通称「ライヴ・ベスト・アルバム」。クリス・ノヴォセリック(ba)自ら、膨大なライブテープより17曲を厳選した一枚。録音場所、状態などまったく異なるらしいが、まるで一晩のステージを聴いてるように思える愛情と手間をかけた編集が素晴らしい。普通は目玉だろう「Smells Like Teen Spirit」が、やや勢いとパワーに欠けるのが笑える。しかし、カートのノドはどんな作りなんだ?と、心底驚かされるボーカルである。枯れる寸前で伸びる所が、特に凄い。また、スタジオ盤よりも米オルタナティブの「2大ブラック」=ブラック・サバス、ブラック・フラッグの影響を特にギター・プレイ(リフ)から感じる。しかし、デイブのドラムを聴くと現在フロントマンなのが惜しくなる。