マライア・キャリーが新作を出すたびに思い出すのは、絶頂期にあった80年代初頭のマイケル・ジャクソンだ。といっても音楽的な共通点がどうのと言いたいわけじゃなく、“大物ならではの信頼感”みたいなものを絶対的に感じさせてくれるという意味。
圧倒的な完成度を前提としたあり方はジャンルとか理屈をはるかに超越しているから、結果的に、大きく間口の開いた強力な説得力として機能するということですね。たとえばマイケルの『スリラー』にも、「こうあるべきだ」みたいな既成概念で推し量ること自体がナンセンスな万人が納得できるクオリティが備わっていたじゃないですか。同じことがマライア作品にもいえるのではないかということ。
今回のアルバムもそうだ。「ものすごい衝撃だ!」とか「人生観が変わった!」というわけじゃないんだけど、純粋にいい曲がいっぱい入ってるから満足できるし、何度でも聴きたくなってくる。ちなみに「いい曲がいっぱい入ってる」って軽い言葉のようにも聞こえるけれど、そう感じさせるのはとても大切なことだと僕は思っている。
シングル「ウィ・ビロング・トゥゲザー」で全米14週1位という実績を打ち立てた前作『MIMI』以来の新作。『MIMI』も世界的に大ヒットしたわけだから、普通の感覚で考えれば(さらに優秀な作品を作らなければという)プレッシャーみたいなものに悩まされたとしても不思議はないだろうと思う。でもプレッシャーに屈するどころか、堂々たる存在感をアピールしまくっているあたりがさすがです。
出だしの節まわしが気持ちよすぎるファースト・シングルの「タッチ・マイ・ボディ」は、マライア、トリッキー・スチュワート、ザ・ドリームの共同プロデュース曲。すでにUSラジオ・チャートで大ブレイクしているスムースなミディアムで、リスナーを安心させてくれる間口の広さがポイントだ。こういうオーソドックスな楽曲で勝負をかけようという姿勢、それ自体がかっこいいね。
トリッキー・スチュワート、ザ・ドリーム、ジャーメイン・デュプリ、スターゲイト、ウィル・アイ・アム(ブラック・アイド・ピーズ)、ブライアン・マイケル・コックス、ジェイムス・ポイザーと居並ぶプロデューサー陣に加えてゲストも絢爛豪華だが、(過去の諸作がそうであったように)その豪華さにあぐらをかくような姿勢は皆無。あくまでゲストをゲストとして、自分をより引き立たせるためにうまく活用している。
ファルセット・ボーカルのサンプリング・ループが強烈な「マイグレイト」に参加するT-ペイン、「クルーズ・コントロール」でいい感じのトースティングを展開するダミアン・マーリー、「サイド・エフェクツ」で吼えまくるヤング・ジー・ジー、「フォーリアルフォーリアル」でスヌープ・ドッグ直系の懐かしいフロウを聴かせるダ・ブラットなどなど、ひとりひとりのパフォーマンスがとても効果的だ。「ラヴ・ストーリー」などでお得意の声フレーズを披露するジャーメイン・デュプリも、相変わらず自己顕示欲丸出しでいい味。
他にも重量感と適度なポップネスが同居した「ヒート」、ダンス・クラシック的な展開が心地よい「アイム・ザット・チック」、同じく疾走感が印象的な「O.O.C.」、上品な音づくりがさりげなくも強い印象を残してくれる「ラヴィン・ユー・ロング・タイム」や「ラスト・キス」など、理屈抜きで楽しめるトラック満載。バラエティ豊かなのにばらけた印象がないあたり、トータル・プロデュースの妙ですね。
それにしても、やっぱり歌のうまさには感服せざるを得ないよね。「アイ・ステイ・イン・ラヴ」や「フォー・ザ・レコード」、「バイ・バイ」のようにしっとり染みるミディアム・バラードを聴くと、今回も「まいりました!」って感じ。ジャジーな「アイ・ウィッシュ・ユー・ウェル」で、その持ち味は最大限に発揮されるって感じかな。というわけで聴きどころ満載。コスト・パフォーマンスの高さが際立つ優秀作です。
(Text/印南敦史)