ケイト・ブッシュは美しい。
それは、19歳でデビューした78年の時点でも、一児の母親となり12年振りに新作をリリースした47歳となった現在でも変わらない。小悪魔的な天才少女から聖女へと成長し、世界の神秘を包み込むような大きな母性愛を内に秘めた美しさとでも言うのだろうか?
一方で、限りなくアーティスティックな完全主義者でありながら、どこか“不思議ちゃん系”が入った佇まいも見せ、そのコケティッシュな魅力は色褪せない。ケイトが不在だった12年間の音楽シーンは次々と新たなスターを生み出したが、彼女へのリスペクトを公言するコールドプレイ(「スピード・オブ・サウンド」はケイトの「神秘の丘」に触発されている)やビョーク、「愛のかたち」のカヴァーが全英ヒットとなったザ・フューチャーヘッズ、そしてトーリ・エイモスやゴールドフラップといった直系のケイト・フォロワーに至るまで、ケイトの大きな影響力は失われてはいない。「アメイジング・グレイス」がTVドラマ「白い巨塔」主題歌となり、天使のソプラノとして日本で話題となったヘイリーが、ケイトの「嵐が丘」をカヴァーしていことも記憶に新しい。
そのケイトの12年振りのニュー・アルバムであり8作目となる『エアリアル』は、第一線から退いていた10数年に書きためた曲が1枚のCDに収まりきらず、「海」と「空」をテーマにした、ケイト初の2枚組の作品となった。1枚目の「A Sea Of Honey」は、どちらかと言うと、ケイトのポップ・サイド(”売れ線サイド”)を収めたもので、2枚目の「A Sky Of Honey」は鳥の声をテーマに、移ろい行く一日の流れに沿ったコンセプチュアルで実験的なサイドとなっている。どちらも、叙情性や神秘性に溢れ、
「2枚組にして良かったのは、やってみたかった空間とアコースティックな音を生かしたクラシック風の曲作りと、ドラムがしっかり入ったバンドサウンドの曲との両方ができたってことですね。」
とケイト自身が語るように、重層的(かつ控えめ)にエレクトロニクスを駆使しながらも、どこか解放的で幸福感に満ちた歌が印象的だ。愛息バーティーを歌った「Bertie」や家事である洗濯を題材にした「Mrs Bartolozzi」などは、これまでのケイトでは聴けなかった曲だ。亡き母への思いを綴った「A Coral Room」も感動的だが、イギリスでファースト・シングルとなった「King Of The Mountain」は、エルヴィス・プレスリーと映画「市民ケーン」をモチーフに、有名になること(芸能界でのセレブ願望)への辛辣な風刺を込めた内容となっている。プロモーション・ビデオも視聴できるので是非、その映像マジックとイマジネーションに溢れた曲に浸ってほしい(全英チャート4位の大ヒットとなったこの曲、絶賛配信中!)。
そして、2枚目の「A Sky of Honey」に収められた9曲のピースが織り成す壮大な世界は、現在のプログレッシヴ・ロックの最高峰と捉えることもできる。小鳥のさえずりとのデュエットで始まり、昼の世界から夜(夢)の世界を行き来する構成は、無垢な精神とシュールな世界を行き来しながら、魂の浄化を目指しているようにも思える。特に「Sunset」から「Somewhere in Between」を経て「Aerial」へと向かうクライマックスは、生命力に溢れ、創生の喜びが感じられる。
今回の特集では、初期の2枚『天使と小悪魔』『ライオンハート』で、イノセントでありながら小悪魔的なエロティシズムも漂わすケイトを味わい、6枚目の『センシュアル・ワールド』では、神がかった大きな包容力と汎ヨーロッパ的なサウンドで陶酔の世界へと誘うケイトに浸っていただきたい。それが、新作『エアリアル』を理解する手がかりになるはずだ。(Text/遠藤哲夫)
ケイトは80年にピーター・ゲイブリエルの『V』にゲスト参加し、「Games Without Frontiers」をデュエットする。この時の録音作業に大きなショックを受けた彼女は、初のセルフ・プロデュース作となる『ドリーミング』で、デジタル・サンプリングを導入し、凝りに凝った作品を完成させる。そこでのエスニック風味は『愛のかたち』を経て、この『センシュアル・ワールド』でより肉感的な豊かさを伴って開花する。『ドリーミング』を出してから、精神を病んだと思われてた時期があったが、アイルランドやブルガリアの民族音楽に触れることで、生命力を取り戻したと言うべきか?デイヴィ・スピラーンのイーリアン・パイプの音が響きわたる「センシュアル・ワールド」やトリオ・ブルガルカと共演した「ロケッツ・テイル」の斬新な試みは、ケイトの独自性を際立たせている。「リーチング・アウト」の高揚感や「ディス・ウーマンズ・ワーク」の繊細な優しさも聴きどころ。
ピーター・ゲイブリエルが在籍していた初期のジェネシスは英国情緒をプンプンに漂わせていたプログレ・バンドだった。ソロとなったピーターは、ケイトと親交を持ち86年には「Don't Give Up」のデュエットによるヒット曲も放つ。本作はジェネシスの4作目にあたる名盤であり、ゲイブリエルの七変化のヴォーカルをはじめ、ソングライティングの手法などもケイトに大きな影響を与えているはず。
ケイト・フォロワーに入れるのは微妙であるが、同じアイリッシュの血が流れるという点では、アーティスティックな部分で共通性がある。特にこの『Universal Mother』というアルバムは、シニードの女性としての母性愛や柔らかな感情を表に出したアルバムであり、ケイトの『愛のかたち』や『センシュアル・ワールド』に近いものがある。「Thank You For Hearing Me」など、癒される曲が並ぶ。
独特の退廃美を漂わす、超美形シンガーのアリソン・ゴールドフラップ率いるエレクトロ・バンドがゴールドフラップ。ルックスは勿論、1作目『フェルトマウンテン』で聴けた田園風景的な世界もどこかケイト・ブッシュを思わせるものがあった。だが、2作目の『ブラックチェリー』からダークでデカダンな世界へとイメージ・チェンジ。3作目『スーパーネイチャー』からのシングルが「Number 1」と「Ooh La La」!