オリンピックのスコアが毎回上昇していくことからもわかるように、年月を重ねるごとに進化していくのが人間の技量だ。たとえばギターにしても同じで、「いかに速く弾くか」という観点から捉えればこの数十年でテクニックは格段の進歩を遂げたといっていい。
ジャズ・ギタリストのアル・ディメオラからご存じMr. Bigのポール・ギルバート、果ては多くのスラッシュ・メタル勢に至るまで、多くのリスナーが「いや、こいつこそ最速だ!」みたいな基準を持っているのではないだろうか。
速さから得られる快感は間違いなく存在するので、それを否定する気はない。しかし一方で、テクニックを超えた「なにか」が重要であることも事実で、それを知っておくと音楽を聴くという行為はもっと楽しく深いものになる。
たとえば、何千回プレーヤーに乗せても聴くたびにそんなことを実感させるのが、ジミ・ヘンドリックスのギターだ。
時代の変化とともに彼が超絶テクニックの持ち主として語られる機会は少なくなりつつあるが、それは単に時代の変化とともに「テクニック記録」のようなスコアが塗り替えられたにすぎない。 彼の才能自体はそんなことで風化するようなものではないし、小手先のテクニックを超越した「なにか」があるからこそいまでも相変わらず圧倒的なのである。
では、「なにか」とはなんなのだろう。彼のギターに関していえば、それは「うねり」なのではないかと個人的には解釈している。試しに「Purple Haze」や「Hey Joe」、「Voodoo Chile」などの代表曲を聴いてみるといい。ジミヘン・マニアならずとも、初めて彼の名を聞く人であっても、そこにあらがえない力の壁のようなものを感じるだろう。つまりはそれこそが、ジミ・ヘンドリックスにしか表現できなかった「うねり」だ。それはロックであり、ファンクであり、自己主張であり、ひいてはジミ・ヘンドリックス そのものなのだ。
1942年、ワシントン州シアトル生まれ。軍隊経験を経てバック・ギタリスト活動を開始し、1966年に移住したロンドンでジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンスを結成した。
'69年まで続いたこのバンドの代表作として、一度は耳にしておきたいのが'67年作『Are You Experienced』だ。有名曲「Foxey Lady」で幕を開けるこのアルバムの時点で、表現者としての彼の才能が確立されていたことがわかるだろう。 別のいい方をすればこの時点で、彼をジャンル分けすることは不可能だったともいえる。 また同じ理由から'68年の『Electric Ladyland』、同バンド解散後のライヴ・アルバム『Band Of Gypsys』もぜひ聴くべきアルバムだと主張したい。しかもこの機会に、ジミヘンを知らない世代にぜひ体験してみてほしいと心から思う。 「これ聴かなきゃダメだべ」みたいにオヤジくさいことをいいたいわけではないのだ。そうではなく、それでも声高に主張したいのは、ここに現在の音楽に失われたものの実態が明確に表れているからだ。それは言葉ではないし、音そのものでもないかもしれず、なにか精神的なものである可能性も高いのだが。
つまり、1970年に若くして世を去った左利きのギタリストは、いまなお饒舌に語りかけるのである。だから、リーバイスのCMに少しでも関心を持ったとしたら、そのときが聴くべきときだ。
追記:もちろん楽曲単位でもインパクトは絶大だが、できればアルバムを通して聴いてみてほしい。おそらくそうすれば、さらに奥深く彼の生きざまを確認できるだろうから。
(text:Steve Johnston a.k.a.Propmaster Sweet)
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