「ロックンロールは不良の聴く音楽」。
そんな時代にあってエルヴィス・プレスリーは、アメリカの若者文化の象徴でもあり、時代の申し子として、ポピュラー音楽に変革をもたらした20世紀最大のスターであった。
“ロックンロール”という言葉は、1951年にアメリカの人気DJだったアラン・フリードが自分の番組で使ったのが最初とされているが、その時点では黒人音楽のリズム&ブルースを白人に紹介するための造語だった。リズム&ブルース(黒人音楽)とカントリー&ウェスタン(白人音楽)が融合して生まれたのが“ロックンロール”で、1955年にヒットしたビル・ヘイリー&ヒズ・コメッツの「ロック・アラウンド・ザ・クロック」が最初のロックンロール・ヒットである。同時期にヒットを放ったチャック・ベリーやリトル・リチャード、ファッツ・ドミノなどが、どちらかというとまだリズム&ブルース色が強い中にあって、「黒人のように歌う白人シンガー」エルヴィス・プレスリーの登場は、時代を揺るがす衝撃的な出来事だった。くねくねと腰を振りながら歌うエルヴィスの姿(テレビでは上半身しか映さなかった)は若者を熱狂させ、“ロックンロール”は大人たちの良識に反抗しながら世界を席巻していった。
エルヴィス・プレスリーは、1935年1月8日ミシシッピ州テュペロで生まれ、13歳の時に一家でテネシー州メンフィスに移った。南部の黒人音楽の中心地でもあったメンフィスで、エルヴィスは、当時“罪深い音楽”とされていたR&Bやブルースを聴きあさっていた。1953年、ハイスクールを卒業しトラックの運転手をしていたエルヴィスは、母親にプレゼントするために、自分の歌を自費でレコードにした。その録音をしたスタジオを経営していたのが、サン・レコードのオーナーであるサム・フィリップスだ。エルヴィスはサン・レコードと契約し、1954年7月にまさに歴史的なレコーディングを行った。「ザッツ・オールライト」がエルヴィスのデビュー盤としてリリースされ、メンフィスのローカル・チャートで大ヒットとなる。
サン・レコードでの音源は、ロックンロール誕生の瞬間を捉えた貴重なものであるが、エルヴィス人気が全国的になるのは1956年、大手レコード会社RCAに移籍して発表した「ハートブレイク・ホテル」からだ。全米ヒット・チャート1位となり、「ハウンド・ドッグ」「冷たくしないで」も連続で1位を記録。その年の9月、人気TV番組「エド・サリヴァン・ショー」に出演した時の視聴率は82%に達したという。エルヴィスの登場は社会現象として大きな騒ぎとなった。56年から59年までの4年間に、「ラヴ・ミー・テンダー」「トゥー・マッチ」「恋にしびれて」「テディ・ベア」「監獄ロック」「ドントまずいぜ」「冷たい女」「恋の大穴」など12曲が全米No.1ヒット記録し、チャートにランク・インした曲は38曲にのぼる。
エルヴィスの音楽性を語る時に50年代は最も輝いていた時期である。しかし、60年代に入ると映画スターとしてのエルヴィスにスポットライトが当たるようになる。58年3月から60年3月まで兵役のためにブランク期間があるが、復帰後は軍隊での体験をそのまま映画化したような『GIブルース』を皮切りに、69年までの10年間に28本もの映画に出演した。いわゆる、スターが主演して歌う“歌謡映画”であるが、とんでもない大量生産である。日本でも『燃える平原児』『ブルー・ハワイ』『夢の渚』『アカプルコの海』『ラスベガス万才』などが人気作となった。50年代は数多くのロックンローラーを生み出したが、エルヴィスの入隊やバディ・ホリーの事故死(59年)などが重なり、ロックンロールやロカビリーが勢いを失っていった中、エルヴィスが映画に活路を見出したのもうなずける。だが、数多い主演作の中でエルヴィスが最も輝いて見えるのは、70年のラスヴェガスでのステージの模様を収めた『エルヴィス・オン・ステージ』だ。リアルタイムでエルヴィスの音楽を知らなかった世代にも、この『エルヴィス・オン・ステージ』は格好の材料となった。例のゴージャスな白いジャンプスーツ姿が印象的だが、61年以来、7年間にわたってライブ活動を中断していたエルヴィスが、本来のライブ・シンガーとして復活した姿は実に生き生きとしている。
70年代のエルヴィスは、ラスヴェガスのイメージが強くなりすぎた感じもあるが、やはり、ヒット曲が徐々に減ってきた。そんな中、68年の「サスピシャス・マインド」(エルヴィス最後のNo.1ヒット)以来久々に、「バーニング・ラヴ」(72年)が2位まであがるヒットとなった。その後のエルヴィスは、73年のプリシラ夫人との離婚などもあり、どちらかというと感傷的な曲が増えていったようにも思う。そして、77年8月16日、メンフィスの自宅グレイスランドで、42歳の生涯を終えた。死後もさまざまなエルヴィス伝説が生まれ、「エルヴィスは生きている?」なる本まで出たが、今年、エルヴィス没後30周年を迎える。ファンクラブを中心にしたイベントや映像関連のDVD復刻など、改めてエルヴィスの偉大さに触れる機会が増える。ブルース・スプリングスティーンやU2だってエルヴィスの音楽にショックを受けてロックを始めたのだ。この『The Essential Elvis Presley』は没後30周年を記念しての特別企画で、代表曲を52曲収録した決定版といえるもの。もう一度、エルヴィスよ永遠に・・・。
(Text/遠藤哲夫)
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