一流スタジオ・ミュージシャンのベスト・プレイをパズルのように組み合わせた緻密なサウンドと、独特のユーモアと毒気に満ちた言葉で、究極の音世界を構築してきたのがステイーリー・ダンである。72年のグループ結成から、アルバムを発表する毎に、メンバーを減らしていき、理想の音に合わせてスタジオ・ミュージシャンを起用していくという、ドナルド・フェイゲン&ウォルター・ベッカーのプロジェクトへと収斂していった。この方法論で制作された『幻想の摩天楼』『エイジャ』『ガウチョ』などの代表作は、そのジャジーでタイトなサウンドで、世のAOR/フュージョン・ブームをリードした。
完璧主義を貫いたスティーリー・ダンの活動に一旦、休止符を打ったのが1981年6月。フェイゲンとベッカーの二人はコンビ解消を宣言した。そのわずか1年後に発表されたフェイゲンのソロ・アルバム『ナイトフライ』は、スティ−リー・ダン時代と同じ、ゲイリー・カッツによるプロデュースで、サウンドの感触はスティ−リー・ダンそのものであるが、フェイゲン単独で書いた曲はより明確なビジョンを示していた。50年代から60年代初めにかけての若者が抱いていたファンタジーや、現実への挫折感などをテーマにした『ナイトフライ』を経て、11年振りにリリースされた『カマキリァド』、そして更に13年の年月を置いて発表されたのが、このソロ3作目となる『モーフ・ザ・キャット』である。
この最新作『モーフ・ザ・キャット』についてフェイゲンは、
「『ナイトフライ』は若者の観点から見た感じだ。『カマキリァド』は、もっと中年期に関するものということになるだろう。この新作は、実のところ、終焉について語っている。だからある意味、これは三部作みたいなものになっているんだ」と語っている。
現在、58歳になるフェイゲン。2003年に母を亡くし、大きなショックを受け、命に限りがあることを考えるようになった。もう1枚、自分の“晩年”という視点からアルバムを作っておく必要があったのだ。2001年の9.11テロ事件からの影響も、この終焉についてのアルバム曲を書くきっかけになっている。
「(死のように)自分でコントロールできないものに対しては、ユーモアを持ってアプローチするしかないと思う。それしか恐怖やうつ病とかに勝つ方法はないんだよ。それがアルバムにも投影されているんだ」
と語るように、このアルバムは決して不安や恐怖を煽るものではない。楽観的になりがちなフェイゲンのユーモア感覚が生かされ、皮肉をこめた歌詞とジャジーなアップビートが織り成す極上のサウンドは、ともすれば陽気に響いてくるほどだ。
アルバムからのファースト・シングル「H Gang」は、バンドの誕生と死についての曲であり、スティーリー・ダンでの体験が歌い込まれているそうだ。レイ・チャールズの亡霊に語りかけるという設定の「What I Do」や、どこか異国情緒を漂わせた「The Great Pagoda Of Funn」、空港の身体検査をセクシーに皮肉った「Security Joan」など、内容はどれも一筋縄ではいかないウィットに富んだものであるが、通して聴いていると、身体にフィットしてくる心地よいグルーヴが延々と続いていくような印象を受ける。『ナイトフライ』のあとに聴いたとしても違和感はないだろうし、あの『エイジャ』が今のマンハッタンに甦ったような感覚も受ける。流れる年月にこだわりつつも、時間軸を超越したようなソロ・アルバム、この『モーフ・ザ・キャット』は、フェイゲンが住む摩天楼を見事に映し出す。
(Text/遠藤哲夫) |










