ヒップホップの対象年齢が下がるなか、誠実に音楽的価値を追求するアーティストのひとりがコモンだ。いや〜、この人は本当に信頼できるんだ。「自分がどうあるべきか」をその時々において真剣に考えていることが、音の端々から伝わってくるだけに。
だからデビュー当時から全幅の信頼を置いていたのだけれど、それでも今回はまいった。ここまで高品質なものが出ちゃうとはまいった。うれしくってうれしくって、このところ人に会うたびに同じ言葉を繰り返している。
「コモンの『Finding Forever』聴いた? すげえヤバいよ!」
同郷シカゴの重鎮、カニエ・ウェストとの共同体制による2005年作『Be』に次ぐ新作である。で、今回もプロデュースは引き続きカニエ。しかも『Be』より、完成度はさらに高まっている。プロデューサーとしてのカニエが、「コモンと一緒にやりたかったこと」をとことん追求しているという印象だ。
先行シングル「The People」を耳にした時点でピンときた人も多いと思う。70年代のアメリカン・ハード・ロック・バンド、マウンテンの「Long Red」、そしてギル・スコット・ヘロン「We Almost Lost Detroit」を下敷きにしたトラックも感傷的で説得力抜群。ラッパーとしてのコモンが持つ“渋み”を最大限に活かした楽曲だ。
けれど、アルバム内部に進んでいくと、さらに視野は広がる。たとえば、メロウなエレピの音色が心地よい「Intro」から、切れ味鋭い「Start The Show」につながるオープニング。コモンのフロウもスムースだし、フックにかぶさるカニエのパートも緊張感をうまく引き出している。かと思えば、ザ・ニュー・ロータリー・コネクション「Love Has Fallen On Me」のピッチを上げてサンプリングした「Driving Me Wild」ではリリー・アレンと共演ですよ。めくるめく楽しさ。
一方、硬く重たいトラックがとにかくかっこいいウィル・アイ・アム制作曲「I Want You」、カニエのラップもスリリングな「South side」、沈み込むようなビートとスクラッチが決め手の「The Game」と続く中盤も聴きどころですぜ(個人的にはこの3曲が核だと思っている)。
「U,Black Maybe」は、コモンのジャジーなムードを活かした曲。心に残るやさしい雰囲気がいい。で、同じことはディアンジェロ参加の「So Far To Go」にもいえるかな。故DILLAによるファットなトラックとディアンジェロの相性は抜群で、そこにコモンのラップが重なるとさらなる深みを感じさせる。
ジョージ・デューク「Someday」のボーカル・パートをそのままサンプルした「Break My Heart」も、彼とコモンが共演しているようなバーチャル感を備えたトラック。名曲「Don't Let Me Be Misunderstood」のニーナ・シモン・バージョンを使った「Misunderstood」とともに、強力プッシュしておきたい。
でね、ビックリしたのが「Forever Begins」です。なんとサンプリング・ソースに、ポール・サイモンの「50 Ways To leave Your Lover」を用いてるんですねー。こういう使い方もあったか、という感じ。そしてラスト(注:ボーナス・トラック)では、ソウルクエリアンズの一員としても知られるR&Bシーンの良心、ビラルが久々に登場。シルキーで表情豊かなボーカル・ワークは相変わらず素晴らしく、的確に韻を踏んで進むコモンをうまく引っぱっているぞ。
ヒップホップの基本をしっかり押さえながらもバラエティに富んでいて、ハードコア層からポップ・リスナーまでを納得させられるだけのポテンシャルがアルバム全編に網羅されている。だから、何度聴いても聴き飽きない。まだ彼の音楽を聴いたことがない人は、ぜひチェックした方がいいっすよ。断言するけど、現時点ですでにクラシック決定の重要作ですから。
(Text/印南敦史)