前作『Come With Us』から3年、スタイルを変えるのではなく従来のケミカルらしさに新しさを加え、アルバム全体の整合間も素晴らしい進化し続ける1枚。初っ端の「Galvanize」から、ア・トライブ・コールド・クエストのQ-Tipをフィーチャーした、パワー全開のナンバー。この曲と「Left Right」がヒップ・ホップ色が濃く、中盤の「Believe」「Come Inside」「The Big Jump」と強力なフロア・ライクな曲が並ぶ。「Close Your Eyes」のポップでキャッチーなメロディーはマジック・ナンバーズとのコラボ。ラストの壮大なハウス・アンセム「Surface To Air」まで、アルバム1枚通して聴くと感動的な気分にひたれます。
2003年にベスト盤『Singles 93-03』を出し、10年間の活動に一区切りをつけたあとの5作目にあたる新作『Push The Button』が好評のケミカル・ブラザーズ。音楽にとって一番大切な“ソウル”を込めたというだけあり、フロアで踊るもよし、部屋でリスニングするもよし。ボーカル・ナンバーが増え、ケミカル史上最もポップでフレンドリーなアルバムになっている。
80年代の終わり、マンチェスター工科大学の学生だったトム・ローランドとエド・シモンズは、地元のクラブ“ハシエンダ”(映画「24アワー・パーティ・ピープル」の舞台にもなった)でDJとして活躍するようになる。アシッド・ハウスがブームの中、アンドリュー・ウェザオールやジャスティン・ロバートソンといった先達DJからの影響とパブリック・エネミーに代表されるヒップ・ホップへの憧れが化学反応を起こす形でケミカル・ブラザーズは誕生した(結成当時はダスト・ブラザースという名前だった)。
サイレンの音をサンプリングした「Song To The Siren」で93年にデビューしたケミカル・ブラザースは、レイヴ・カルチャーが崩壊していく中、凶暴なブレイク・ビーツで新たなダンス・ミュージックの誕生を宣言した。同じようにブリストルではトリップ・ホップが生まれ、エレクトロニカのオウテカやエイフェックス・ツインズが登場するのもこの頃だ。
95年の『さらばダスト惑星』はテクノとロックが融合した記念すべきアルバムであり、2作目の『ディグ・ユア・オウン・ホール』(97年)は、オアシスのノエル・ギャラガーがボーカルを取る「Setting Sun」が熱狂的に受け入れられたこともあり、英アルバム・チャートで1位を獲得。世界的に見てもプロディジーの『ザ・ファット・オブ・ザ・ランド』の大ヒットと並んで、デジタル・ロック/ビッグ・ビートという名のダンス・ミュージックが世界を席捲した。アンダーワールドやファットボーイ・スリムもデジタル・ロックを代表するグループだったが、アッパーで荒々しさを残した“ケミカル・ビート”が、ポップ・フィールドまでを飲み込んでメインストリームと化していく。マーキュリー・レヴとのコラボによるサイケデリック・テクノ・ロックの金字塔「The Private Psychedelic Reel」は画期的だ。ロックとの垣根を越えてコラボレートする魅力は、3作目『サレンダー』(99年)においても、ニュー・オーダーのバーナード・サムナーと組んだ「Out Of Control」や、再びノエル・ギャラガーを迎えた「Let Forever Be」に現れ、同年のフジ・ロックにケミカルとアンダーワールドが来日し、そのステージは伝説となっている。
2002年の『カム・ウィズ・アス』は、元ヴァーヴのリチャード・アシュクロフトとの共作による「The Test」、更にケミカルの最高傑作として名高いポップ・アンセム「Star Guitar」を収録。いままでのオリジナリティから更なる高みへと連れて行ってくれる(Come With Us)アルバムだ。そしてフレイミング・リップスをフィーチャーした歪んだサイケ・ポップ「Golden Path」を含むベスト盤『Singles 93-03』を経て、この『Push The Button』だ。常に「化学変化」を起し続け、ダンス・ミュージックの未来を手中にするケミカル。また違う次元での陶酔と恍惚が待っている。(Text/遠藤哲夫)
ヒップ・ホップ/R&Bシーンの売れっ子プロデューサー・チーム、ザ・ネプチューンズがラッパーを加えて結成したユニット。デビュー作『In Search Of…』からのマキシ・シングル。ジャンルごちゃ混ぜのオタクっぽい音が特徴で、ビースティ・ボーイズ・ファンにもおすすめ。「Rock Star (Nevins Classic Club Blaster-edited)」 はケミカルっぽい!
マッシヴ・アタックの前身バンド、ワイルド・バンチにいたネリー・フーパーがプロデュースした、ジャジー・B率いるソウルUソウル。ハウスとレゲエをミックスしたグラウンド・ビートは一世を風靡し、キャロン・ウィーラーが歌った「Keep On Movin’」と共にUKクラブ・シーンに名を残す。沈み込むようなクールな質感は今聴いても古臭さを感じさせない。
在英エイジアンのメンバーで結成された、ジャングル/ダブ/ラーガのミックスによる個性派音楽集団がエイジアン・ダブ・ファウンデイション。政治色が濃く攻撃的な部分もあるが、テンションの高い明るさが特徴。マシンガンのようなラップの「New Way New Life」や「Real Great Britain」がシングル・ヒット。エスニックなメロディは、ケミカルも影響を受けた?
ハウス/トランス/アンビエント・テクノに、スピリチュアルな要素を加え、エレクトロニカ・ダンス・ミュージックを代表する才能モービー。最近の『Play』や『18』は爆発的なヒットとなった。初期のベスト盤が本作で「ツインピークス」に使われたデビュー曲「Go」や、アッパーなR&B「Move」、癒される「Into The Blue」とさすがの名曲揃い。