情熱を落ち着きと気品で包み込んだようなヴォーカル-----デトロイトの良質なグループ、チャプター・8での活動実績を軸に、アニタ・ ベイカーは1983年のソロ・デビュー・アルバム『The Songstress』で自己世界を早くも完結させた。その証拠に「ノー・モア・ティアーズ」「ドゥ・ユー・ビリーヴ・ミー」「エンジェル」など当時のシングルを改めて耳にしてみれば、それらが近作にまったく劣らないと気づくだろう。 彼女は1986年のセカンド『ラプチュアー』から「スウィート・ラヴ」を筆頭に「ウォッチ・ユア・ステップ」「コート・アップ・イン・ザ・ラプチュアー」「セイム・オールド・ラヴ」「ノー・ワン・イン・ザ・ワールド」とスマッシュ・ヒットを連発し、世界的に成功した。そして1988年の『ギヴィング・ユー・ザ・ベスト』からカットされたタイトル曲は最大のヒットとなった。「ジャスト・ビコーズ」「リード・ミー・イントゥ・ラヴ」も続いてヒットし、この時点で評価は不動のものになったのだ。そして1990年の『コンポジション』からも、「トーク・トゥ・ミー」「ソウル・インスピレイション」「フェアリー・テイルズ」がヒット。以後の彼女は『リズム・オブ・ライフ』を機に寡作となり、昨年復活するまで10年間も沈黙を通したが、それは「もう闇雲に動き続けなくてもいい」という余裕に裏づけられたものなのかもしれない。1983年から、あるいはチャプター・8が結成された1973年から脈々と受け継いできた核心は、それほどに普遍的なのだ。 そんな彼女がこの冬、クリスマス・アルバム『クリスマス・ファンタジー』をリリースした。彼女らしい、ソフィスティケイトの極みというべき作品。クリスマス・アルバムというフォーマットは彼女の世界観を映し出すのに最適なだけに、これまでリリースされなかったことが不思議なくらいだ。 「フロスティズ・ラヴ」、パティ・オースティンらのレパートリーでもある「クリスマス・タイム・イズ・ヒア」、ビング・クロスビーからアル・グリーンまでが歌い継いできた「クリスマスはわが家で」など、スタンダード・ナンバーの解釈がさすがだ。同じくビング・クロスビーやペリー・コモ、さらにテイク・6も取り上げている「ゴッド・レスト・イェ・メリー・ジェントルマン」や「髪の御子は今宵しも」と、トラディショナル曲もすばらしい。 さらには「クリスマス・ファンタジー」「ムーンライト・スレイ・ライド」「ファミリー・オブ・マイ・マン」と、アニタとプロデューサーのバリー・イーストモンドが書き下したオリジナル曲も、未来のスタンダードと呼ぶにふさわしい仕上がり。 そして本作のもうひとつの注目点がバック・メンバーだ。ギターにラリー・カールトン、フィル・アップチャーチ、キーボードにジョー・サンプル、ジョージ・デューク、バリー・イーストモンド、ベースにネイザン・イースト等々、世界的なトップ・ミュージシャンがクリスマス・ムードを最上級に盛り上げているのである。演奏に耳を傾けてみても聴きごたえ充分というわけで、心豊かなオフタイムの演出にはうってつけ。クリスマスまでの十数日間、彼女のヴォーカルをさりげなく流しておいてはいかがだろうか。 (Text/Steve Johnston a.k.a.Propmaster Sweet) |







