ミュージック・シーンにコンピュータがすっかり浸透した昨今、すべての音楽はボタンひとつでかんたんに作れるようになりました。コンピュータが、多くのミュージシャンの表現欲求を満たしてくれるようになったのです。しかしそうやって生み出された作品は、リスナーにとって必ずしもベストなものではありません。心を和ませたり、ほっとさせてくれるような人間っぽさ、音楽が本来持っているべきそのような暖かみが、どんどん減っているからです。つまり音楽がただ消費されるだけのものになってしまったからこそ、いまほど「暖かな、演じ手の情熱が伝わってくるような音楽」が求められている時代はありません。人間である以上、体温を感じたいというのは当然の欲求なのですから。
そのような意味合いにおいて、過去にJ-POPシーンで大活躍してきた
椎名林檎(シーナリンゴ)を筆頭に六弦の晝海幹音(ヒラマミキオ)、四弦の亀田誠治(カメダセ−ヂ)、太鼓の刃田綴色(ハタトシキ)、鍵盤のH是都M(エイチ
ゼット エム)からなる
東京事変は、「当たり前のものを当たり前に聴きたい」というリスナー本来の欲求をストレートに満たすバンドだといえます。ギターがいて、ベースがいて、ドラムがいて、キーボードがいて、そしてヴォーカルがいて……というロック・バンドの基本というべき構成からもわかるとおり、彼らの音楽には「当たり前だからこそ」の説得力が備わっているからです。大きな話題をさらったデビュー・シングル
『群青日和』を聴いてみれば、
東京事変が「当たり前のロック」にこだわっていることはすぐにわかるでしょう。彼らが叩き出す心地よいロック・サウンドの裏側からは、パフォーマーの意志、バンドにかける思い、その他さまざまな情熱からくる人間的な手触りがはっきりと感じられるのです。
「そういえば日本のポップスって、ほんとうはこういう暖かい音楽だったな」おぼえやすくて、痛快で、そして切ない
東京事変の楽曲は、そんな思いを呼び起こしてくれることでしょう。どれだけテクノロジーが発展しようともコンピュータでは決して再現できない、人間による「生」の音楽、それこそが彼らのメッセージなのです。(Text/senju)