まったくもって油断もスキもない男である。「いえ〜い」という脱力感を丸出しにした挨拶でステージにフラッと登場し、その場に居合わせたすべての観客を夢中にさせるほどのライブを実にさらっと行ってしまう男、斉藤和義。そんな斉藤和義らしくフラッとリリースした、デビュー15周年にして12枚目のアルバムとなるニュー・アルバム『I LOVE ME』、これがすごく良いのだ。けして派手な作品でも実験的な作品でもエポックメイキングな作品でもない。しかしこの作品が、斉藤和義のキャリアの中でもかなりの大傑作であることは間違いない。
アルバムは、イントロのアコースティック・ギターの音色が印象的な「I Love Me」から幕を開ける。一見、かなり能天気なアルバムタイトルにも思えるが、実はシリアスで攻撃的な色を帯びた作品であることを、感情を隠したままじりじりと疾走するこのナンバーが高らかに宣言する。「これが俺なんだ」という開き直りと自嘲、そして少しの自負がアルバム『I LOVE ME』の基本的なトーンだ。傍若無人な亭主関白フォーク「男節」、甘えたがりなブルース「愛に来て」(本人出演のUHA味覚糖『e-maのど飴』CMソング)、苛付きながら吐き捨てるように歌うアコギ1本の弾き語り「バカにすんなよ!」と、次々に表情を変えていく全12曲。それぞれの楽曲が、作詞、作曲、編曲、およびすべての演奏を担当する斉藤和義という男が抱える様々な感情の輪郭を、しっかりと鮮やかに描いていく。
個人的な感想を書かせてもらうなら、終盤のブルースハーブとアコギによる「かすみ草」が一番グッときた。叙情的な失恋の歌を、どこか淡々と歌い上げるフォーク曲だ。胸の中で押し殺した切ない感情が、ほろっと零れ落ちそうになるのを堪えるような歌声に、聴き手も思わず気持ちを重ね合わせてしまう。ギターを持った詩人、斉藤和義の渋みと旨味が一度に味わえる1曲だ。