坂本龍一は1996年、その名も『1996』というアルバムを発表した。自身のピアノとチェロ、そしてヴァイオリンという編成で、当時の新曲とともに 過去の楽曲を演奏した作品だ。クラシックからポップにまでまたがるレンジの広さを再確認するという意味で、こういう試みはなされてしかるべきだなと感じた記憶がある。
そして1999年には、ピアノ曲集の『BTTB』をリリース。CMソングやニュース番組のテーマ曲などを含むこの作品には、彼のベースであるクラシックからの影響が反映されていた。
いきなりこの2枚を引き合いに出したのには理由がある。このあたりに、アートとビジネスとの間で絶妙のバランスを保つ彼らしいスタンスが表れているように思うからだ。
つまり彼の作品はアートとしてのクオリティを保ちながら、ふだん音楽を聴かない人までを取り込める幅の広さを備えているということ。
芸術表現というのは、ともすればひとりよがりになりがちなものだ。そうであるだけに、相反する両者を同じ尺度で扱える彼のバランス感覚には感心させられるのである。
昨年リリースされた『/04』、そして最新作の『/05』は、ある意味で『1996』と『BTTB』の延長線上に位置する作品だ。
『/04』で際立っているのは、同名シャンプーのCMソングとしておなじみの「Asience-fast piano」、サントリー・ウィスキー「山崎」のCMソング 「Yamazaki2002」、デヴィッド・ボウイ、ビートたけしとともに出演した映画『戦場のメリークリスマス』のテーマ曲「Merry Christmas Mr. Lawrence」、映画『ラスト・エンペラー』に使用された「Rain」など、誰の耳にも親しみやすい楽曲の数々。
しかしそこに、室内楽のようなピアノとハングル語のラップが絡む「Undercooled - acoustica」(オリジナル・ヴァージョンは『CHASM』に収録)や、8台分のピアノを多重録音した「Riot in Lagos」(『B-2 Unit』収録曲)など実験的な楽曲もがさりげなく共存する。
ファースト・ソロ・アルバムから生まれた名曲「Thousand Knives」も再演している『/05』は、『/04』と同一コンセプトながらもより落ち着いた印象。『ラスト・エンペラー』や『シェルタリング・スカイ』のテーマなどの有名曲とともにYMOのアルバム『BGM』の「Happyend」なども収められており、とても聴きごたえがある。
そして結論をいえば、両者に共通しているのはわかりやすく、それでいて奥が深いということだ。実験的要素がそこかしこにちりばめられていてクリエイティブなのに、聴き手を限定しない。
じっくり聴き込めば、聴き込んだぶんだけの表情が表れてくる。聴き慣れた曲も多いから、静かに部屋に流しておくにも適している。だから、「さまざまな生活スタイルに密着した音楽」としての応用範囲がとても広いのだ。
たとえば休日。2枚を連続して、あるいはランダムに延々と流しておけば、間違いなく快適な時間をすごせるはずだ。









